悪は存在しない (2023)

文字数 929文字



【悪も善もない平坦な日が続くのみ】2024/5/7

「ミニシアターシネマです」・・・のような濱口監督のコメントが気になっていた、実際にミニシアター系でしか観ることができないのも事実だった。

いつも利用しているミニシアターは連休明けの昼間にもかかわらず満席に近い状態だった、映画祭三冠(カンヌ、ベルリン、ベネチア)の前評判が追い風になっていたに違いない。
むろん「ドライブマイカー」という商業大作がアカデミーを獲ったことが、一番大きな影響だったのかもしれないが、前述のとおり監督本来のフィールドはミニシアターだということ、ではそれはいかがなものか・・・沸き起こる興味とともに拝見した。

ミニシアター系シネマの自分なりの勝手な定義としては「製作者の強い想いが込められている」とか「メッセージに重点が置かれている」とか、「一般受けはしないが特定コアなファンのため」などなど大手シネコンでは扱いにくいシネマの総称と考えている。
この2年近く、ご近所にミニシアターがオープンされたおかげで多数のミニシアター系シネマを拝見してきたが、満足度の高い作品は意外と少なかった。
観る側としての資質不足ともいえるが、シネマは総合エンターテイメントだと信じているので、ミニシアター系作品とのギャップはこれからも縮まることはないだろう。

さてさて、では濱口シネマ最新作はどうだったのか?
山の木々、湖、空、自然の美しい映像と、間欠的な鋭角的音楽のコンビネーションが、冒頭から延々と続く中でオープニングクレジットが入る。
「さぁ ちゃんと観て聴いてね」と挑戦されたようで身構える。
今作には著名な俳優さんはいない、もしかして専門の俳優さんでもないように思える登場人物たちが朴訥に語り合う姿に、戸惑いながらも一方では新鮮な感覚も受け取っていた。
  
中盤からストーリーが動き出す、田舎町に襲いかかる開発暴力に自然体で抵抗する住民、開発担当者の心変わり、実りのないコロナ保証制度、そんなところにドラマチックな展開も結末もないはずだった。
   
突然襲いかかる悲しい出来事、世の中はこんな風に人知れない喪失を抱えて毎日が動いているのだろう。
悪も善もない平坦な日常が続くだけだった。
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