ガッデム 阿修羅 (2021)

文字数 772文字

【阿修羅と生きる】 2023/6/13


夜市での無差別銃撃事件をめぐるサスペンス・・・という僅かな事前情報に反応したのは、本作がめったに接する機会のない台湾シネマだから。

無差別銃撃事件と言えばアメリカが本場、日本では銃規制が厳しいのでたとえフィクションとしてもリアリティに欠ける、では台湾ではどうだったのか?

無差別銃撃はメインのテーマではなかった、もしそちらを期待していたら大きな肩透かしを食らうだろう。
三部作になっているシネマの第一話では威力の弱い改造拳銃による無差別銃撃に至る青年の心の闇がテーマになっているが、これはありきたりと断言してもいいくらいの思春期の鬱積犯罪を踏襲しているだけだ。
主な登場人物として、コミック原作者・画家の男子親友同士、広告代理店に勤める女と役所勤めの婚約者、危ない事件ルポライター、 貧困に負けない数学脳女子学生・・・彼ら6名が事件にかかわるのだが、第一話では互いの関連が説明されないまま、消化不良のままに終了する。

第二部でその詳細とある種の謎解きプロセスがあるものだと予想するが、これも見事に外れる。
第二話で前述の6名の役割が逆転するケースもあるくらいのアナザーストーリーが進行する、もしかして「真相はこちらだ!」展開なのかと訝る。
とはいうものの、愛と憎しみ、生と死の両極を変更しての真相はあり得ない。
だとすれば、パラレルワールド?
いや、そこまでスペキュレイティブな創り込みもない。
置いてけぼりになって途方に暮れた。

ラストシーン、コミックを描き上げる若者、そこには登場人物たちの阿修羅の姿があった。
メタバースに拠り浸ることもない、オンラインゲームに溺れる必要もない、心の中の阿修羅をしっかりと見つめたところに生きる道筋が見える。
今まで経験したことのないメッセージ性の強い台湾シネマだった。
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