ウミヒコヤマヒコマイヒコ (2007)

文字数 928文字

【不思議がほんの少し解けてきそう】 2007/6/8



シネマ俳優として田中泯さんを追いかけていたら、このシネマに往きついた。

泯さんには《たそがれ清兵衛》、《隠し剣鬼の爪》、《メゾンドヒミコ》、《地下鉄に乗って》のなかで、会うごとに新鮮な感動を覚えたものだ、気になって仕方がなかった。
直近の《地下鉄・・・》での、時空ナビゲーターのように感じられた老教師の立ち姿に、ただ座っている姿に鍛えられ磨きぬかれた「美」を感じて痺れたものだ。
むろん泯さんが舞踏家ということぐらいの知識はあったが、あの立ち姿ひとつで、あの切ないファンタジーがぐんと引き締まったことには驚くのみだった。
これって何なんだろう?
この、正解などありえないような質問がず~と僕の精神下にわだかまっていた。

本シネマでは、泯さんがインドネシアを45日間旅するなか、ひたすら踊る。
初めて泯さんの踊る姿を観た。
その踊りは、とてつもなく美しいが、とてつもなく困難な動きを強いている。
僕もアスリートの端くれとして、筋肉の構造と使い方、その初歩ぐらいは知っているつもりだ。
泯さんの真の姿、舞踏家の実像にようやく触れた思いがした、感動した、シネマに観た不思議がほんの少し解けてきそうな気もした。

ところが冒頭、泯さん自身のナレーション(泯さんの声がこれまた柔らかくて心地よい)で:
「職業は百姓、踊りたいときに踊る・・・」のような自己紹介があって、びっくりしてしまった。
インドネシアの旅といっても、実際は辺鄙な農家、漁師、街角の庶民に飛び込んでいくプロットになっている。
自然のなかに踊りを捧げるという思想も感じたけれど、かの地の人間に踊りでコミュニケートする泯さんはあたたかく輝いていた。

「田中泯」初体験の僕としては、彼の踊る思想に関しては思い違いもあるかもしれないが、本シネマは面白い。映像が、あるときはスティル志向、切り撮られた自然と泯さんの組み合わせが当然のように美しい。
一方で、オーバーラップ多用でインドネシアの幻想的風景を総合的に感じさせてくれる。

繰り返しになるが、泯さんのナレーションを聞いてると心が落ち着いてくる。
彼の心のままの言葉が、あのソフトで気持ちいい声で流れてくる、僕には至福のナレーションだった。
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