ジャンゴ 繋がれざる者 (2012)

文字数 1,138文字

【意図せず仕掛けられたパースペクティブ】 2013/3/3



同じタイトル、テーマソングの
「続荒野の用心棒(Django)」をマカロニウェスタン全盛期に
リアルタイムで観た僕としては、嬉し・懐かし・有り難しだった。
その圧巻はといえば,フランコ・ネロ(続荒野の用心棒主演)演じる農園主に
ジャンゴが自分の名前のスペルを教えるくだりだ。
「名前は・・・Django だ、Dは発音しない・・・」というジャンゴに
「 それは知ってるよ」と応えるフランコ・ネロ
・・・ここまでやるか!大笑いしてしまった。
ただし、テーマは結構タフでシビアだ、
オバマさんが総大将の国とはいえ良くここまでできるものかと多少心配したりした。
ずばり、黒人差別、奴隷制度詳細の総復習が全編を貫く、
もちろんタランティーノスタイルでだが。

人身売買なんて用語は現代では裏社会でしか通用しないのだが、
この時代(南北戦争2年前)この地(アメリカ南部)では皮肉なことに
人身売買の概念すらない。
黒人はニガー、どれもニガー、そのニガーは白人に反抗しない。
黒人は白人の所有物、財産、何をしても赦される
・・・飼い犬にかみ殺させてもOK,黒人同士を死闘させて賭けをするのも無論OK、
売り買いは当たり前。

そんな常識を承知できないドイツ人移民が本シネマの核になってくる。
アメリカ開拓史に燦然と輝く「お尋ね者(WANTED)」システムを
ビジネスチャンスとして取り入れたドイツ人歯科医が本ストーリーの狂言回しである。
演じた怪優クリストフ・ヴァルツの名演は確かにアカデミー賞に値する。
このドイツ人賞金稼ぎがジャンゴと化学反応してしまう、
というより彼がジャンゴにすっかり取り込まれてしまう。
賞金稼ぎとしての「知と力」をジャンゴに教授していく中で、
人種差別の本質に否が応でも彼も向きあわされる。
そう、人種の違いは知能の差ではない
・・・簡単に言えば「黒人と白人に脳味噌の差はない」ことを確信する。

こんな当たり前のことを法の下に宣言するためにアメリカは国を二分して戦うことになる。
この物語はその2年前だそうだ。
僕はこれから公開される「リンカーン」を観ることも楽しみにしている。
アメリカが拠って立つ「自由の精神」をリンカーンに見出してみたいものだ。
そして、そのためのわかり易い、娯楽満載、ドンパチいっぱい、
血がドバドバの「ジャンゴ物語」はその水先案内になっていた。

老婆心:
クリストフ・ヴァルツが本作に無くてはならない「リベラルの象徴」を好演したとすれば、
レオナルド・デカプリオは新世界秩序に巣食う奴隷制という「悪の象徴」を好演した。
もっとも、この演技でデカプリオにアカデミー賞を取ってもらいたくないのも
正直な思いでもある、
それにしてもデカプリオは格段上質の存在感だった。

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