夏への扉 ―キミのいる未来へ― (2021)

文字数 913文字

【現代日本に忖度したマイルドな初シネマ化】(2021/6/25)



古典SF 「夏への扉」のシネマ化が世界初とのことはちょっと意外だった。
原作は1957年だから60年以上もその機会はあったであろうにとも思った。
僕自身、そうはいっても原作の記憶は遠い向こう側に飛んで行ってしまっていたので、本シネマ鑑賞前に改めて新装版を読み返したてみた。

そうだったな、タイトルは猫のピートの哲学であった「諦めない心」のことだった。
しかしながら、ハインラインの本タイムトラベルSFの基調はジョブナイル寄りの恋愛小説だったことにも気づかされた。
恋愛とSFの融合は容易いものではないし、またそのエッセンスを映像に切り取るとなると、フォーカスがぶれてくるリスクが大きいのだ。そんなことを検討しているうちに、原作の舞台である1970年~2001年は過ぎ去り、いつの間にか不朽の古典名作というありがたいタイトルをいただくことになり、映像化はさらに遠くなりにけりだったのかもしれない。

さて、そんな忘れ去られたかのような「夏への扉」が2021年日本の夏に蘇った。

原作の時代設定が25年先送りになって、1995年~2025年の30年の時間転移になっている、遠い過去でも未来でもないこのミディアム具合が実に日本的だったとはいえ、タイムマシン、冷凍睡眠の原作のキーワード、そして猫のピートは大切に継承されていた。
今回のシネマ化での大きな変化は、新規に創られたヒューマノイド型ロボット「ピート」。
原作でもあった万能型ロボットがシネマでは進化して物語の展開の上で重要な役割を果たしている、SFにはつきものの面倒くさい説明パートをロボットが代替してくれたことは、脚本上のファインプレイだった。
もっとも、その分SFのヴァリューがいくぶん低下したかもしれないが、代わりに主人公の恋物語におけるカタルシスが増したとすれば結果オーライと言えないこともない。
ストーリーは基本的には原作以上にホンワカ仕上がっていて、主人公の失意・哀しみは最小限に留められているのは、面倒くさいことを拒否する現代世代に忖度したのだろう。
こうして不朽SFのシネマ化は、それほど破綻のないレベルで合格点だった。
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