ワース 命の値段 (2020)

文字数 899文字

【人間の尊厳】 2023/2/28


事実に基づいたシネマが近年多くなっている、本作も然りこのスタイルであるが、その事実が9.11テロ事件だというインパクトはシネマの形になっても強烈だった。
2020年製作、事件から20年の隔たりがある、20年のけじめとして今一度犠牲者を思い出す機会にしたかったのか?
しかし、本作は事件には直接触れない、犠牲者の「命の価値」を突き詰めて問いかける。
死亡、負傷した民間人、警官、消防士およそ7000人への補償交渉を一手に引き受けた弁護士物語になっている。
命の値段を決める弁護士の苦悩する姿はずしんと心に響く、演じたマイケル・キートンの代表作の一つになった。

「命の値段」What is life WORTH ? とは犠牲者に支払う金額(数字)のことを示す気味の良くない言葉であるが、主人公が 目指したのは早期に補償合意することで訴訟長期化や膨大な費用を避けたいことと同時に、テロ事件後の社会混乱を避け国の安定化をも達成しようとする純粋なボランティア精神だった、主人公率いる法律事務所総力を挙げたプロボノ活動経緯そのものも感動的だった。
事実に基づいた物語らしく、手の込んだ展開やあつと驚くようなどんでん返しは準備されてはいない。 目標の合意契約数が積み上げられず、主人公弁護士が自らを反省し原点に戻って直接被害者から話を聞こうと改心するところが キー秘話になるぐらいアメリカ弁護士業界が抱える利益優先体制が本作では問い直されていた。

被害者としてゲイのパートナー、不法移民、愛人隠し子などにも言及したり、訴訟対象と想定されるエアラインのロビイストの圧力があったり、退屈することのない工夫が施されエンターテイメント面も確保されている。

一番の収穫は「人間の尊厳」の再認識だった。
本シネマは命に値段はつけられない、命の値段に格差はないという主張の虚しさを認めたうえで、それでも正しい道を探せと問いかける。
悲惨なニュースが世界から飛び込んでくる毎日、
数字の人間ではなく生身の人間がいたこと、その家族友人の悲しみに寄り添うことが大切であることを改めて思い出させてくれた。
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