テーラー 人生の仕立て屋 (2020)

文字数 741文字

【ギリシャの力】 (2021/9/8)



僕が生きてきた短い人生の中においても、消えてしまったお店がたくさんある。
「レコード店」や「写真現像プリント店」などは、商品自体がほぼ消滅したわけだから、お店側に責任はないと同じように、「仕立て屋」も同じような消えて行く運命に乗っかているようだ。
なにしろ、スーツがもはや仕事着でも、晴れ着でもない世の中になってきた。
一応サラリーマンたちの定番だった喪服のようなスーツにノーネクタイ姿もリモートワークが推奨されるご時世で不要となり、まして仕立スーツは過去の亡霊。
あるいは 「男性優位」の象徴であったスーツも、ジェンダー問題の渦中で存在価値を失っていくのかもしれない。
本シネマは、この「仕立スーツ」一点にフォーカスし、破産の危機から立ち上がる仕立て屋さんの物語である。
二代目仕立て屋の主人公、銀行の支払いができず、創業者の父が病気で倒れ、前述のように仕立服の需要がない現状が丁寧に説明される。
お客が来てくれないなら、こちらから出向くと決心し街中の市場に屋台を出して、仕立て服を売ろうとする。
顧客満足がビジネスの基本であることなど知らない叩き上げの職人だ、無論ドラッガーも知らないだろう。
そこから、主人公が商売の原点に気づくまでの、あれやこれやが本シネマの肝になっている。

2010年、2015年のギリシャ財政危機から立ち直ろうとするギリシャの市井の人びと、その諦めない挑戦の姿勢をシネマは象徴しているのか?
いや、国家は一人ひとりの国民の集合だと考えれば、EUの援助を仰ぎながらも人間らしい生活を追い求めるギリシャの本音が見えてきた。

老婆心: ギリシャで評価が高かったとのこと、若手の女性監督が話題らしいが、本作の撮影テクニックがとても印象的、音楽もね。
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