哀れなるものたち (2023)

文字数 1,303文字

【エマ・ストーンあっての名作だった】 2023/1/30


ヴェネチア映画祭金獅子賞というニュースで知り得た本シネマだが、エマ・ストーン以外は、馴染みのない名前が並んだスタッフ・キャストだったのは、ぼくの 不勉強のせいであるのだが、「この原作が映像化されるとは驚きだ」というコメントが妙に印象深かったのも、原作はもとより著者についても不明だったので余計気になり、速やかにA社で原作を捜したが絶版状態だったことでまたまた興味が募った・・・このようなプロローグがある。
これにはまだ続きがあって、その後A社から「哀れなるものたち」の新版が出ます、予約どうぞという連絡が入った。
こちらからは何も依頼していないのに、お得意のアルゴリズムと履歴からのプロモーションだった、むろんさっさと購入したのは言うまでもない。

先ず最初に、原作小説の感想を述べておく。
本書は稀代の怪物本だった。
著者アラスター・グレイが古い自費出版本(1909年)を運命的に入手した所から本書は始まる、ドキュメンタリー紛い臭さ芬々の出だしだ。
医学博士の手になる「スコットランドの一公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話」が本書の大きな流れとなる、それは怪奇と驚きの一編、死体を蘇らせ脳を再生していくホラーなのだが、その実験対象が美しい人妻であり、成長するにつれ自由な精神を持つ女性戦士に進化するというストーリーが全体のほとんどになっている。
英国の階級社会を強烈に皮肉った展開とともにジェンダー問題をも軽々とこなす展開に、あれよあれよとついていくだけだった。
実は 物語は複層的に構築されているのだが、主人公である人造人間ベラの奔放な言動に惑わされて気づくこともなかった。
読み終えてみると、「脚註」に至って細やかに仕組まれた叙述トリックが背景に横たわっていた。 それも本当は何が真実なのか困惑してしまう類のトリックだった。

ではシネマはどうだったか?
原作とシネマは全くの別物だという確固たる持論を持っているが、本ケースにおいては原作の強烈なインパクトがそのまま映像に昇華し、あまつさえ 原作のホラー色がかなり薄められ代わりに艶っぽい趣に移行しているのはエマ・ストーンファンにとっては至福のものになった。

「脚注」を活用することはできないので、物語はストレートに進む、忠実な映像化と言ってもいいかもしれない、だから稀代の怪物シネマになった。

この功績はひとえにエマ・ストーンの熱意によるものだろう。
彼女は製作側にも位置し、女性の強さをあらん限り振りまくテーマのもと、旅先々のエピソードはシニカルな教訓が仕込まれ、最後には前述のとおりパリ娼婦館エロチックサービスを全てエマ・ストーンが受け持っているところからも、本作はエマ・ストーのシネマと言ってもどこにも不都合はないだろう。

活字で想像する恐怖もいいが、主人公はじめモンスタードクターの創造生物たちを眺めて、人類の残虐さを改めて納得した。
単純なジェンダーイシュー提起などを飛び越えて、人類の進む未来の底知れない不安が根底に渦巻いていた。
2024年早々、とてつもない名作に巡り合ったものだ。
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