ドレスデン、運命の日 (2006)

文字数 832文字

【死を頑なに拒否し、爆弾を避け、炎を逃れる】 2007/11/25



エンディングロールにオーバーラップして、2005年がドレスデン爆撃60周年であったこと、
市の象徴である聖母教会が多大な努力で復興したことが明らかにされる。
その意味するメーッセージが、世界から戦争をなくすことだと了解できる。
しかし、
いまさらながら無差別爆撃の悲惨を再現する意図は一体なんだったのか?

ドイツが描いた本シネマ、ドレスデンの惨劇は歴史に述べられているとおり:
イギリス空軍が効果的戦略を冷酷に実行したこと、
戦いの趨勢はもはや決まっているのに、
イギリス空軍の爆撃はあまりにも残虐であったこと、
などなど、かなりの程度公平な立場で製作されているようだ。

主人公一家が、戦争で利益をあげ自分たちは安全を確保する類の利己的上流階級として扱われながら、一方で長女はリベラルで且つ博愛精神であることで、そのバランスを保っている。
この時代と場所に欠かすことことのできない「ユダヤ人」すら百科事典から切り取ったかのような紋切りでしかなった。

このように、時代に生きた人物に特徴が見出せないのとは裏腹に、
爆撃の描写、市民の惨状は予想以上に詳細で具体的だった。
まるで、「ポセイドンアドヴェンチャー」のように死を頑なに拒否し、爆弾を避け、炎を逃れる主人公。彼女(フェリシタス・ヴォール体当たり熱演)がそうまでして伝えたかったことが重要だった。

実はシネマ本編の後、
彼女がドレスデン爆撃60周年会場にいて、復興なった聖母教会の上から市を俯瞰するドキュメントシーンにその答えが見えた。
EU加盟国は本気で戦争を無くそうと決意していることを、盟主ドイツは宣言している。
だからこそ、今ドイツは60年前の悲劇の責任所在を問題にするつもりはないこと、
すべての地域の争い、武力による解決の無意味さを伝えようとしている。

伝えたい相手は、今戦争をしている国々、それに加担する世界中のすべての国々。
シネマの力を、小さな力であろうとも期待したい。
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