ファーザー (2020)

文字数 804文字

【「さっぱりわからん」でいいよ】 2021/5/17



観るのをかなり躊躇していた。
アンソニー・ホプキンス 2度目のアカデミー男優賞の演技を見なくていいのか?
と、
あまりにも生々しい物語が予想できて自分が耐えられるか?
この二つの命題の狭間で迷っていた。
結局自分自身に「所詮はシネマの作り物」だと言い聞かせて、シネマを観た。

予断はなかったが、事前情報がしっかりと入っていた。
シネマは、ギリギリと情け容赦なく現実に迫る(邦画にあるような「逃げ」や「限度」は一切採用されなく、例えば「長いお別れ」のように)。
登場するのは、主人公の男性老人、ボケ、認知症、痴ほう症、アルツハイマー・・・なんと呼ぼうと病気の老人、本人に罪はこれっぽっちもない。
そして、その娘と旦那、ハウスヘルパー、看護師、医師、これだけのシンプルなキャスト構成になっている。
一見 叙述ミステリーと思わせるような登場人物の交錯映像もあるが、これらはすべて主人公の認識の映像であることは察しが付く。

娘すら忘れてしまうのだから、その連れ合いのことなどは記憶にとどまらない。
介護・看護してもらうのが自我を損なうものだから彼らを正確に認識することもない。
時間の感覚はなくなる、同じように場所の認知も。
物がなくなるのは自分が隠してしまうから、その代わりに、盗まれたとしか思いつかない。
亡くした家族に会おうとする、連絡しろとせがむ。
間違い、誤認識を指摘すると、意地悪だと非難する。
最後に混乱してしまうと・・・「さっぱりわからん「と叫ぶ。

あまりにも僕個人の経験通りだったので、途中から息苦しくなった。
だからといって脚本が優れている、とも、迫真の演技だったとも思えなかった。
そんなことは手練れの専門家には簡単なことだから、それがプロフェッショナルというものだから。

白寿を控えた父親が「さっぱりわからん」と言っても僕は怒りも覚えないし落胆もしない、
もっともっと言ってもいいよ。
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