太陽とボレロ (2022)

文字数 811文字

【ボレロを振りたかったんでしょ、水谷さん】 2022/6/6



「轢き逃げ 最高の最悪な日(2019)」に引き続き、監督・脚本の重責を担った水谷豊さんだけど、前作のような深みも切れ味も感じられなかった。
勝手に想像すると、ご本人がテーマを長く熱く胸に秘め、過剰に肩に力が入ったところに落とし穴があったのではないか?
そのテーマとは「ボレロ」という楽曲そのもの、この音を映像に表現したかったのではないか・・・そしてそれはちとタフなミッションだったようだ。

具体的に敢えて指摘すれば、
本物の演奏家に交じって演技する俳優さんたちの発する緊張感は決して好感をもって見れるものではないのと同時に、多数のリアル演奏家さんたちとて終始カメラにさらされる演奏の中に不自然なこわばりが感じ取れる。

物語は市民オーケストラ解散にまつわる群像劇であり、オーケストラメンバー分だけエピソードが盛り込まれている。
パワハラ、セクハラ、リストラ、骨肉の恨み、介護問題それらを総括する地方経済の疲弊、ひいては日本経済と教養の低迷にまで話は及ぶ。
当然、メンバー間の愛情小話も老若セットで用意される、欲張りすぎと言えるほどの詰め込み状態だった。

サウンドベースになるクラシック楽曲もスタンダードレベルではあるも、クライマックスのボレロに収束するに至るまでこれまた盛沢山。
見所、聴き所満載なのではあるが、すべてが薄っぺらかった。
繰り返しになるがすべてのエピソードはシネマ構築の骨組みではあったが、それ以上効力を出せないまま断ち切れてしまった。

ボレロを著名マエストロで締めくくるアイデアはそれなりにゴージャスだが、シネマの格を一層素人領域におし下げてしまった。
多数の演技人の中において水谷さん、檀さん(フミさんのほうだが)が飛びぬけて洗練されていたこと、そして監督の想いを忖度すれば、水谷さんがボレロを振ってみたほうが素人オーケストラ美談としては、すっきりしたのではないかな。
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