日蔭のふたり (1996)

文字数 775文字

【飽くなき欲望と変節】 2007/9/24



ジュードとスーの二人の切ない愛に19世紀末の時代が追いつかなかった。
本当にそうなのだろうか?
ジュードは三世代で達成するべき理想を唯ひとりで挑戦した愚かな無謀な青年だったのだろうか?
この今の時代にはもはや偏見は無いのか?
人は賢くなったのか?

トマス・ハーディーの原作は世紀を超え、装い新たに僕に語りかける。
ウインターボトム監督最高傑作、ケイト・ウィンスレットの才気が迸る。

一見、
いとこ同士の愛、結婚の形式を取らない家族など、
神の教え、社会掟、タブー挑戦の気味良さに惑わされる。
だが、
僕が深く感じたのは、人間の飽くなき欲望と変節だった。

万能の学問を信奉して、大学への夢を捨てきれないジュードは、
階級の壁を自覚している。
とっくにジュードは学問の欺瞞を察知していたのではなかったか?
ジュードのスーへ愛は学問放棄の言い訳ではなかったか?
一方、
ジュードの愛を試すかのように、スーは年配教師を惑わさなかったろうか?
無味な結婚に何かしらの罪悪感をスーは感じなかったのか?
惨劇をもって神の罰とし、信仰に生きるスーに偽りは無いのか?悔いは無いのか?
疑問ばかりが沸き起こってくる。

ジュードの叫び・・・「ぼくを愛しているのか!」
スーの冷徹な呟き・・・「もはや愛していない!」
愛の形は簡単に崩れ去る。

人を愛すること、
信念を曲げないこと、
理想を求めること、
が罪になる人間世界、運命はあまりにも意地悪だ。

ウィンターボトムの何ものも容赦しない表現に、悲しくも心を、魂を掴み取られる。
ブル-基調の美しいカットの積み重ねに悲しみはいや増してくる。
確かに目に映る世界はあの時も、今も美しいのかもしれない。

僕は、しかし、二人の悲しみの中に決して消し去ることのできないジュードの希望を感じた。
原題は「JUDE /ジュード」、彼の希望は僕の希望になった。
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