16歳の合衆国 (2002)

文字数 852文字

【悲しみも幸福を感じるため】 2007/7/24



「知恵遅れの子供を殺害した16歳の少年」、記号はやはり悪魔なのか。
ところが、シネマに映し出される少年の姿はあまりにも静か、無に近い。
モノローグとして語られる少年の内言がその絶望をより救いがたいものにしている。

シネマとしては珍しく、「否定的、ペジミスティック」に終始し、
普通の人間が普通に生きることの困難と悲しみ、それだけを取り上げている、
・・・・が、退屈しない。
このゆったりとした流れ、穏やかな映像にに騙されると本シネマの緻密な構成に気づかないままになる。

ホーグ監督作品は初体験だったが、脚本と演出一体化の成功パータンだった。
まずもってハッピーでない登場人物たちばかり:
加害者サイド:
■ 他人の悲しみを感じすぎる主人公(ライアン・ゴズリング / 驚異的存在感演技)
■ 「幸福は続かない」ことを悲しくも証明する主人公憧れの年上女性
■ 息子と10年間会うこともしない独善的小説家(ケビン・スペイシー / 計算された個性創りにひれ伏)
被害者サイド:
■ 主人公を愛し抜けない麻薬依存症の少女
■ 知恵遅れの少年と彼を偏愛する両親
■ 恋人の家庭に居候する青年、だがその愛を終わらせたい女
ニュートラルサイド:
■ 人は弱いものと開き直る俗物教師(ドン・チードル / 難しい普通人を体現)
■ その俗物に口説かれ浮気の相手にされる同僚女性

シネマでは、この関係者一同が時間の流れを前後し、交錯しながら描かれていく。
ぼんやりしているとこの精巧な歯車のかみ合わせに置いてけぼりになる。

「何故16歳の少年は知恵遅れの子供を殺したのか?」
その理由を人々は知りたがる、憶測する。
最後に迎える更なる悲劇、僕はこの結末を認めてあげたい。
そして彼ら全員の過ちもすべて許してあげたいと心から思った。
人生を諦めてはいけないが、ずっと背筋を伸ばして戦い続けるわけにもいかない。

主人公のノートに「悪は善を確かめるために存在するのだろうか?」と書かれていた。
「悲しみも幸福を感じるためにある」と信じたい。
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