推理作家ポー 最期の5日間 (2012)

文字数 915文字

【一級のポー伝説】 2012/10/14



原題「The Raven」は難解だし,
邦題の《推理作家ポー、最後の5日間》は説明過多だ。
エドガー・アラン・ポーが推理作家で、彼が死亡する前の出来事であることを
わざわざタイトルで示唆することも無いだろう。
と懸念していたが、それは僕の知識不足だった。

後知識によると、ポーの死亡は謎に包まれていて、
ダイイングメーッセージである「レイノルズ」はポー研究においては有名なことらしい。
裏を返せば、この研究ポイントを知らないと、本シネマの面白さもかなり減少してしまう危険をはらんでいる。
シネマでは、大胆にポーの死亡実態を描き切る、そして「レイノルズ」の意味も明らかにされる。
本シネマの大義が「ポーが死を賭して挑んだ殺人事件解明」であるとすれば、
僕のようにポー本人のことなどに詳しくない身には、
シネマでの謎解きはさほどの感動にはつながらない。
ポーにより創作された殺人事件を、あろうことか現実に再現する犯人の意図を推理するポーの苦悩に共感するほど、ポーの作品のことも知らない。

一歩譲って、担当警官とポーが、彼の作品のなかのコピーキャット部分をなぞることで
観客が知識を共有するとしても、
言葉(セリフ)での理解には限界があり、実際謎解きは明解だったとは思えなかった。

事かように、本作はポー作品の世界に拠したサスペンス展開でありながら、
欲張りにもポー自身の人柄と人生をも描いていこうとする。
曰く;
愛する女性がことごとく「死」にみまわれること、
「詩」創作が彼の生きる目的であり、小説執筆は糊口を凌ぐためであること、
それでも常に赤貧の生活を強いられていたこと・・・などなど。
パイオニア文学者の苦悩である。

・・・・と考えていると、
僕はエドガー・アラン・ポーの実像にすこし近づく。
ジョン・キューザックのメイク、ヘアーが本人に酷似していることに気づく。
恐らくはエキセントリックな言動も本人に似せたものなのだろう。
俯瞰から大鴉の視線で捕らえたポーの末期に、
愛のために死を受け入れるポーの哀しみを感じる。

なるほど、エドガー・アラン・ポーにはこのような謎が残されているのだ。
深いところでこのシネマ、一級のポー伝説に仕上がっていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み