殺人の追憶 (2003)

文字数 852文字

【過去の傷の痛みを感じ後悔の念がよぎる】 2007/11/24



《ゾディアック》に先立つこと3年、
類似テーマ「未解決猟奇殺人」を扱ったシネマが韓国で創られていた。
僕は韓国シネマが得意ではなく、薦められた場合だけ鑑賞しているが、今回もお奨めいただいた皆様に感謝したい。

さて、どう感謝したかというと;
20年前の事件に関わる刑事たちの姿はそのまま、20年前の韓国の社会情勢を表していた。
北朝鮮との戦時体制が日常の普通として生活に溶け込んでいた。
警察権力が近代化に喘いでいる様子も主人公の刑事(ソン・ガンホ好演)を通して見て取れる。
そう、
韓国が民主化を推進し、経済を強化し、国際化に向けてテイクオフしようとする時代が、
この連続殺人事件捜査を通じて賢く描かれていた。
捜査活動は拷問から科学的データ重視に、そして情報開示義務とマスコミとの軋轢、
事件捜査に人員が避けないのは、民主化を求めるデモ規制という実情、
DNA鑑定の設備が無くアメリカに依頼する、
・・・・・こんな時代を経て韓国は今に至っているのだろう。

《ゾディアック》との類似性を示唆したが、実は本シネマのテーマはこの韓国の変遷であって、
犯罪捜査自体を云々するものではないのではないかと気づいた・・。

あの頃から比べて、20年後の主人公は実業家に転進して裕福そうだった。
幸せそうな家庭、心地よさそうな住居、仕事も面白そうだ。
そんな彼が、殺人現場に立ち戻る物語のラストシーン。

20年間未解決だった殺人が彼に思い起こさせるのは、その20年間に失ってしまった、なにか、
もしかして「大切ななにか」ではなかったか?
それは僕が過去に見失ってしまったものと同じものかもしれない?
経済大国をしゃにむに目指した人たちが、ふっと過去の傷の痛みを感じ後悔の念がよぎる。
見失ったものは二度と取り戻せない確信が、余計切なく覆いかぶさる。

本作に秘められた「成長の代償」の重さ、しかしその代償を愛おしいと思う心に強く打たれ、
高度なシネマ作法に触れることができ、予想外の満足だった。
カムサハムニダ。
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