ザ・シューター/極大射程 (2007)

文字数 1,095文字

【コンセプトは忠実に描かれている】 2007/6/3



申し訳なかった、伝説のスナイパー「ボブ・リー・スワガー」をすっかり忘れそうになっていた。10年一昔とすれば伝説はすでに風化してしまったのかもしれない、もういちどボブに謝りたい気持ちだ。

でも、まさか今になってスクリーンでボブに再会するとは思っていなかった。
この不意打ちにも近い歓びで、胸がいっぱいだった。
しかし、
それにしても時代は大きく変わった。
敵役の上院議員が豪語するせりふに、僕は耳を疑ってしまった。
曰く ;
『いまアメリカ合衆国では、国防大臣が自由を守るために戦うのだ、石油のためではない・・・・と宣言している。誰も反論しない・・・嘘だと知っていながら。何が正しいかではなく何が儲かるかが重要だ。』
これが、たわ言だと思えないくらい、本作品ではFBIはじめ司法官僚たちに正義の趣がかけらすら感じられない。
ここに本シネマと僕の想いとの大いなる行き違いを感じてしまった。

ボブが伝説のスナイパーたる根拠は、愚直なまでの愛国心と海兵隊仕込みの射撃と規律と友情だった。
このたびのスクリーン登場にあわせて時代背景を更新し、前述したようなアメリカの混沌とした外交政策をカリカチュアライズしたのも、その狙いがボブのトラブルを際立たせることだったと想像できる。
しかし、あまりにも時代の変化のスピードは速く、冷戦の構図も崩れた今、テロリストとコングロマリット(グローバル複合企業)が顕在化した悪である世界観を強調するしかなかった、仕方のないことだろう。

銃を生きがいにするボブと、これら複雑に捻じ曲がった世界の対比は、結果として思ったほどの緊張感を導き得なかった。

正義は今やどちら側にあるのか?
果たして正義なんてあるのか?

ここでボブはもはや伝説ではなく、時代遅れの殺人マシーンとしてしか認識されないのだった。
僕は何度も、銃撃シーンの中にに伝説のボブの影を、彼のストイックさを探してみたが、そこに見えたのは滑稽なほどの暴力称賛、「眼には眼を」の安易な容認でしかなかった。

せっかくの上院議員のショッキングな発言も、フィクションの枠の中で中和されうやむやになってしまう。
ボブが伝説のスナイパーでありえたのは、彼の単純なまでの正義感と曇りない理性だったが、このシネマではそんなボブが通用しそうもない混沌とした現実世界が彼を大きく覆い尽くしてしまった。
まあ、
そんな不満を感じてもみたが、ボブ・リー・スワガーがいるシネマというだけでも価値は高い。
主人公がスナイパーというだけに万人にお奨めはできないが、すくなくともボブのファンは必見。

ボブのコンセプトは忠実に描かれている。
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