歌声にのった少年 (2015)

文字数 680文字

【「アイドル」の力、TVの力】 2016/9/27



事実に基づいたシネマといいながら、クライマックスで突然実写シーンに切り替わる。
ずるい…とは思ったが、そこに渦巻く圧倒的パレスチナ民族意識に呑み込まれてしまった。

ガザ地区で生まれ、天使の声という名声をほしいままにした少年が、姉の死、友人との離反で夢を絶たれる。その夢とは、スターになって世界に羽ばたくこと。

シネマの前半部、ガザの閉塞状態でなにもできないストレスを抱える子供たち、宗教の教えに埋没する日常は僕には衝撃だった。ガザ地区に閉じ込められた人たちの苦悩がひしひしと伝わってくる。

物語は後半から大きく動き出す。
不法に越境してエジプトの「アラブアイドル」予選に出場する主人公、ムハンマド・アッサーフ、夢にもう一度挑む。
このTV番組「アラブアイドル」は、「アメリカアイドルの中東版」、予選から決勝まで勝ち進む歌手は次第に有名になっていく。恐るべきはアメリカの情報操作パワーだった。
ほぼアメリカ版と同じスタイルの番組作りの中でロケットと称せられて勝ち抜いていく主人公。
途中から、彼の歌声は政治化されていく、虐げられたガザ難民の希望の星として彼の快進撃は一種のガス抜きになる。

彼はそれを察し悩み、その重圧に押しつぶされそうになりながら、それでもガザのために歌う。
優勝の瞬間の、実録ビデオへの移り変わりは感動だった。

シネマを冷静に観直すと、そこには一人の天才歌手が政治に利用されることへの冷やかな視点がある。
有名歌手になり世界でコンサートを開く主人公だが、ガザの出入りは、いまだに困難だというナレーションが心に残った。
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