去年の冬、きみと別れ (2018)

文字数 836文字

【すっきりした、 すっきりし過ぎだけど】 2018/3/12



劇場にわざわざ足を運ぶ理由は人みな様々だろう。
シネコン内を見渡してみるとどうやらアイドル目的の方々が多いようだった、
それもシネマを楽しむ方法だ。
僕は原作者ファン、中村文則の世界がお気に入りなので、
「できれば」シネマでも楽しみたいと願って足を運んだ。

「できれば」・・・
そうなんだな、これが本シネマの興味の全てだった。
原作は革新的なとても変わった形式のミステリーだ、
読むだけでも難行だし、理解するには一苦労する。
いわゆる叙述的トリックが全編に施されているので、読者には所詮勝ち目がない。
話題になったのは、本の冒頭で捧げられたイニシャルの謎だった、
結局よくわからないままだったが。
加えて、中村文則ワールドならではのオドロオドロシ異端裏文化が
盛られていたりするものだから、コアなファンでも置いてけぼりになる始末だ。

シネマと原作には大きな山並みや深い渓谷が立ちはだかって当然なことは
僕の昔からの持論でもある。
今シネマは、原作ミステリーの荒筋を変更してまで分かり易さに突き進んでいった、
前述キャスティングからして当然であろう。
ちょっぴり期待した思索シークエンスや過激エロチックシーンもなかった、
これも同様に当然だろう。

その結果、物語はいたって平坦な復讐劇に成り下がってしまった。
でも、平坦なだけすっきり・はっきりして万人に分かり易くなった。
なんといっても、謎解きを最初から巻き戻しておさらいしてくれる、ご丁寧にも。
僕が原作の行間を読み取れなった後悔など、本シネマにはまるで関係なかった。

プロモーションのキーワードに「この事件は根底から2度覆る」とある。
「あなたは最後まで騙される」とも・・・。
僕は主人公青年のぎこちない演技が最初から心もとなくてシネマに集中できなかった。
基本的立ち振る舞いがアマチュアの域を出ていない。
ところが、謎解きでその稚拙な立ち振る舞いには哀しい理由があったという。
なるほど、僕は最後まで騙されていた。
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