太陽を盗んだ男 (1979)

文字数 1,246文字

【10の意外性】 1979/11/25



これほどまでに楽しませてくれたシネマを最近知らない。
ストレートに楽しくて面白いシネマを
よりによって邦画で発見するとは、喜びはダブル。
理由はなんと言っても脚本。
原案はレナード・シュレイダーだが、脚本には長谷川和彦自身が加わった。
待望のポスト黒沢明こそ長谷川和彦・・・の想いが僕の中でメラメラ燃える。
さて、この脚本の優れている点は「意外性」の一言。

①個人が原爆を作る。
 英米のサスペンス小説ではお目にかかるものの、原爆製造過程が重要な
 シークエンスになってるシネマは寡聞にして知らない。
②なるほど、入手困難なプルトニウムは原研から盗むとはストレートで意外。
③原研進入の為警官を襲うシーンは、別の意味で意外。
 《青春の殺人者(長谷川第一回作品)でスターになった水谷豊が交番のお巡りさん。
 豊からジュリーへの バトンタッチ。おしゃれな楽屋オチ的意外性。
④冒頭のバスジャックも意外性いっぱい。
 旧帝国陸軍軍服着用のこの老人、陛下に話がしたいという??
 一体原爆と何の関係があるのか・・度肝抜く不可解。
 本シネマのアンチテーゼなのだが、この時点ではまるで気づかず。
⑤DJの池上季実子とキスをした後、海に放り込む?
⑥時限装置切断方法が裏の裏をかく。
 このプロットは、《ジャガーノート》にも観たので、
 この時点で主人公9番の狂気が判明すると思いきや、アッサリと肩すかし。
⑦アクションも意外連続。
 原爆奪取で窓に飛び込む。文太警部とのカーチェイスも普通じゃない。
 《バニシングイン60》《セブンアップス》も真っ青、
 DJ実況付きサービスにいたっては、スピルバーグの《カージャック》が思い出されて愉快。
⑧でも、池上DJはアッサリと射殺される
( もっとも死に際で喋りすぎだが)
⑨文太警部のタフさも桁外れに意外。
 機銃を抱えたり、ヘリから飛び降りたり、9番に5発も食らっても死なない。
 だが「そりゃ、ウソだ」と感じさせない迫力。
⑩なんと言っても主人公9番の運の強さ。
 ご都合主義といわれようと、あのターザンごっこが意外な場面で役立つ。
 まさに、仕組まれた意外性。

以上10個の意外性が結集し面白さを完成した。
それだけではない。
シネマの底にある生々しいメッセージへの共感こそ、面白さの隠された理由。
前述のバスジャック老人がシネマ全体のアンチテーゼだとすれば、
太陽を盗んだ9番こそは僕らに潜む目的のない狂気。

戦中派の文太警部は対極にいながら、懐かしく頼れるエディプスコンプレックスの対象。
同様に池上DJは母なる存在にして外世界への代弁者。
日頃どうしようもない中学教師が原爆(権力)を持つことに快感を覚え、
疑いすら持たない自分に狂気と面白さを見つける。

余談:
本日(11月25日)パキスタンが核実験予定。7番目の核保有国になる。
非公式には南アフリカ、イスラエルも保有してるとすれば、パキスタンが9番。
その筋によれば、パキスタンの核原料は南アから盗まれたものとのこと。
事実は小説より奇なり。
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