長い散歩 (2006)

文字数 829文字

【残酷な長い散歩】 2007/7/30



こういうタイプのシネマは悪くない。
たとえ提起される複数の問題、テーマがその本質をえぐることなく表面をかすり気味でも。
いやいや、かすり気味だからこそ悪くない。
奥田瑛二監督が描く悲劇は決して突き詰めたり追い込んだりしない曖昧さに溢れていた。

そもそも、シネマを観て暗い気分に落ち込むなんて僕の望みではない。
悲しみの向こうに見えてくるかすかな人間再生の予感がうれしかった。
登場人物に見えるのは愛し方、愛され方を知らない悲劇、
母親であり、父親であり、夫であり、少年であり、少女・・・・
ごく普通の人間たちの間違いの数々。

メインストリームは教育者でありながら、家族の心を理解できなかった男(緒方拳)が、
再生していく過程。
可愛い幼女との心のふれあいで男も立ち直る・・・
とくれば、何をまたぞろ?の徒労感が先行するけど。
この幼女が母親から虐待を受けているという大義名分を旗に掲げ、
あえて略取誘拐罪を犯す男。
そこに見えるのは、男の自分勝手ないいわけ・・・
己の家族に対する精神的虐待、無理解の罪滅ぼしだ。

わかりやすい仕組みだ、テキストどおりと受け取られるかもしれない。
男が幼女と一緒に見たいと願った「青い空に白い雲」は実は抽象の世界ではなかった。
昔家族とともに見た現実の世界、ただし二度と返らない世界、
男のエゴが際立つ。

幼女サチ(お約束のおとな食いの名子役花菜ちゃん)が歌う天使のパンツの歌、
肩に背負っている天使の翼・・・これらは男が再生するための応援歌であり、
万能のお守りだった。
この翼が折れ破れ、天使の庇護から離れるとき男は真の再生に至った・・・
自らのエゴの極地に涙する男。
では守護天使サチを一体誰が守ってくれるのか?

ところで自殺願望の少年(松田翔太、好演)が男と幼女の旅に絡む。
人生の可能性を断ち切る少年に、為すすべの無い男。
我が身の永らえた命を思うばかりだったろう。
こんな屍累々を踏み越えて男はそれでも生きていく、
人生は残酷な長い散歩。


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