誰も守ってくれない (2008)

文字数 740文字

【石もて打つ】 2009/9/13



日本のシネマも捨てたものではない。
TV系シネマとしては奇跡的な上質な出来上がりに
ただただ自分の不明を恥じた。

決して重厚な物語ではない。
普遍的テーマでもないが、現代人の心の貧困を見せ付けられ、
僕は久しぶりに日本シネマを前にして悩み、考え込んだ。

一見すると、時代の流れに棹差すメッセージがまず提示される・・・
曰く、 犯罪者の家族に連帯責任を求めることは果たして是か非か?
その背景には、
犯罪者の人権を過剰に擁護してきたという誤った法律観の見直し、
「泣き寝入り」の伝統的国民性からの脱却、
などが在ろうかとも想像するが所詮「他人事」の世界でもある。
本シネマでは、ひとたび他人事が実際我身に降りかかった女子中学生と
法律を体現する刑事の哀しみ、苦悩、救済が描かれる。

この事態を醜悪にそれも無責任に拡大しているのがネット世界。
他人の不幸でしか幸福を感じられない不幸な世界の住人による攻撃の凄まじさには
いまさらながら背筋が凍る想いだった。
石持て打つ人々の罪深きこと、下品なことに怒りを覚える。

しかし、本シネマは罪多き人間の理想を謳うだけでもない。
被害者遺族に対する理不尽さもあふれるほどに伝わってくる。
シナリオの秀逸さは刑事が加害者、被害者両方の怒りに苛まされるところにある。
刑事自身が矛盾する気持ちの整理がつかないまま自らの家庭崩壊に直面する。
現代に生きるものが逃れることのできない宿命のようなものを感じる。

エンターテイメント作品から程遠い暗い内容なのだが、
ここではキャスティングが功を奏している。
病める刑事(佐藤)を支える聡明な部下(松田)、
トラウマから癒える努力が悲壮な夫婦(柳葉、石田)
少女(志田)の平凡さ。

真剣にこの問題を考え込んでしまった、けだし名作。



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