衝動殺人 息子よ (1979)

文字数 639文字

【映画人の良心】 1979/10/10



こんな世の中だけに、決して他人事とは思えない悲しみと怒りを感じた。

タイトル《・・・息子よ》という部分から木下監督お得意の家族ものかと想像した。
確かにバックボーンとなる夫婦愛、親子の情は巧みに描かれていながら、その実ドキュメンタリー調に展開する市民運動が真のテーマになっている。
もちろん強いメッセージを持つシネマは嫌いではないし、シネマの大切な使命だと信じている。
ただ、本作は社会性を重視した結果、副作用として「やるせなさ」が強めに感じられるようだ。
ラストシーンで縦に入ってくるスーパーが告げる、
「無動機殺人に対する国家補償が現在に至っても法制化されていない」・・・と。
2時間以上も主人公に感情移入してきた身には、あまりに悲惨なエンディングだった。
市民運動の非力を悟らされるのだった。
一方では、知る由もなかった無動機殺人なるものを自らの生活の中で認識し、その問題点を理解できたのも事実だ。

こんなかたちでシネマを製作できる監督のお人柄を讃えるべきなのだろう。
木下監督のモンタージュ技術、カメラワークの美しさなど、色あせることのない映像美が健在なこともしっかりお伝えしておきたい。
この格調高さが社会告発を崇高に支えている。
豪華な出演者たちからは、仕事というよりボランティア貢献の気概すら感じる。
そんな中で主演の若山富三郎、高峰秀子は熱演、尾藤イサオも好演だった。

これだけの社会的メッセージを含んだ作品が日本でも興業的に成功することの意義は大きい。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み