ロストケア (2023)

文字数 976文字

【観たくないシネマ】 2023/3/24


シネマ劇中、「人は見たいものを見、見たくないものは見ない」という台詞がある。
73年生きていると体感としてわかる言葉があるものだが、まさにこの言葉は真実。
事前情報では、介護士の連続殺人事件、犯人と訴追する女性検事との壮烈な論争が話題となっていた、いかにもガラパゴス日本らしいテーマだと思いながらも、お二人の名優を拝見したく馳せ参じた。

充実した介護保険制度が存在するにもかかわらず、家族(特に親)の介護を制度に委ねることが一種負い目のように思わせる魔物の力が、この日本に蔓延っている。
名優二人(長澤まさみさん、松山ケンイチさん)がこの魔物に挑む。
一方は「救いの力」として殺人を正当化し、一方は正義なき犯罪行為として糾弾する。
予想を超えるお二人の熱競演をまのあたりにし、あらためて本テーマの罪深さを思い出した。

昨年父を施設で看取ってもらった、5年間の家庭内介護を経て専門家にお願いした。本シネマと同様に自分が消耗し力尽きたことを思い知ったからだった。介護制度に救われた。
しかし、
世間では未だに「親の面倒を見るのは当たり前」だとか、「親を施設に捨て去った」などの批判的な言動を見聞きする。
日本独特の「自己責任論」もいまだに消え去ることなく、世論をある意味で牽引している。
福祉国家を支える民度の低さに今更ながら呆れかえる。

シネマは訪問介護システム、介護スタッフの脆弱さをあぶり出しながら、真っ向から救いの殺人を掘り下げていく。 確信犯の介護士の過去が明らかにされるにつれ、介護システムの手が届かない大きな穴を見ることになる。
安全地帯から、その穴の深さ・暗さはわかるはずもないと犯人が語る。 そのとおりなのだろうと思う。

ジェンダーフリー、少子化対策、貧困格差是正などなど、いま日本が抱え込んでいる問題は政治の問題ではないのかも?
日本人のマインドにそれらは因しているのではと思ってしまう。
武士は食わねど高楊枝・・・サムライスピリットが亡霊のように今また日本を覆っている。

美しすぎる長澤さんの渾身の揺れる多面的心、
技の範囲が限度ない松山さんの眼力、
オーバーアクションを凌駕している柄本さんの捨て身、
演技者の宝物に魅了された。
観たいシネマではなかったけれど、観ないときっと後悔するシネマだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み