ハート・ロッカー (2008)

文字数 866文字

【これしか方法はない】 2010/3/6



恐れ知らずの爆弾解体屋ジェームズはアメリカそのものなのか?
あまりにもシンプルメタファーに戸惑った。

「ごめん、許して!もう解体する時間がなくなった、
 ここまで命懸けてやったけど・・・ホント悪いけど俺は逃げる」
強制自殺爆弾にされたイラク一般市民へ投げかける悲痛な叫び。
クライマックスに突き進みながら、隠された主人公の嗜好が
もろくも見え隠れする良くも悪くも感動的シーンだ。

僕にはこう聞こえてきた:
『独裁者フセインも排除した、民主政治だって教えたやった、
 内輪もめまで片付けられないよ・・・アメリカは引き上げる」
その裏にある嗜好とはジェームズにとっての「爆弾処理」であり、
アメリカにとっての「世界の警察」という幻想だった。

ジェームスが任期満了後も再志願し防爆服を夜な夜な愛でるように、
アメリカは新しい無法地帯アフガニスタンに幻のミッションを追い求める。
シネマ前半は爆弾トラップと戦う爆弾処理チームの息をのむ戦いが続く。
873個解体したことを告白するジェームズに、
ヨーロッパ解放軍ともてはやされた二次大戦の誇りが二重写しに見える。
危険な解体にはさっさと防爆服を脱ぎ捨てるまでの潔いジェームズに、
彼を見果てぬ夢のヒーロー像と誤解しそうなアメリカの裏っ側がのぞく。
シネマ後半から様相が変化した。

賞金稼ぎの傭兵たちにはなんら大義はない・
・・・遠い地点から撃ち合う狙撃戦からは敵の姿すら幻。
もとより爆弾トラップは人間の気配は本来見えてくることはない。
イラクの子供、いや大人達すら同じ顔にしか見えない偽善的解放者。
そんな連帯感のない子供の無念を晴らすため,
勘違いして民家に不法侵入するジェームズ、
彼を無邪気とするならアメリカの無邪気とは何か?
戦場に正義を求めるジェームズのせいで負傷する仲間の怒り、
生残ることがこの戦争の意義だった。
ジェームズが妻に、子供に語りかける我が身の選択の真実。

一人黙々と戦う、
誰からも求められなくても戦う、
身内の哀しみは気にかけない、
これしか方法はないと信じる。

ジェームズもアメリカも。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み