おらおらでひとりいぐも (2020)

文字数 838文字

【2020年 主演女優賞】 2020/11/12



オープニングシークエンスをプロダクションのロゴアニメだとばかり思っていたら、
どうやら本編はすでに始まっていることに気づく。
このアニメ1分くらいのショートタイプではあるが、テレンス・マリックの
「ヴォヤージュ・オブ・タイム(2016年)」を簡潔にまとめたうえで、
本シネマのナビゲーターになっているという仕掛けだった。

僕はこの瞬間、本作はマリックワールドを超えた世界級のシネマになるだろうと予感した。
とはいえ、予告編の情報では認知障害のある老女の人生始末物語だと受け取っていたので、
果たしてマリックに迫るものかという大きな疑問はしっかりと胸のなかに漂っていたのも
事実だった。

その意味でいうと、予告編は少しばかり不親切で見せ場を隠していた、
まぁ予告編だけで終わってしまう本編よりはずっといいけど。
例えば颯爽とした生き方・姿かたちの若き日の主人公(蒼井優さん)、
その恋人、つまりは先に亡くなった魅力満天の旦那(東出昌大さん)たちは
予告編では一切現れない。

僕は本シネマ鑑賞のテーマを「田中裕子さん」に絞っていたので
余計その他情報が入っていなかったのだけど、
いまや邦画界を代表するスター男女俳優を過去形で使う贅沢さにも、
またもや本作にマリックワールドを感じたものだ。

実は田中裕子さんの主演作を見損なっている僕だが、
今作では実年齢以上の年配者を演じるとあって彼女の細かい仕草にまで注意していた。
いやいや出してくるわ、出てくるわ熟練の技の数々に、それだけで僕は満腹してしまう。

「オラダバ、オメダ」ダンスのしなやかさ、
決め台詞でもある「おらおらでひとりいぐも」をソーセージを噛み砕きながら発する豪胆さ、
フルバンドをバックに謳う亡き夫への恨みのバラードの饒舌さ。

本作は奇妙な映像を駆使しコミカルな展開ではあるが、
フェミニズムと男女の愛情の奥の深さが身に染みてくる名作だった。
もう今年の主演女優賞は決まったと感じた、
ついでにレコード大賞もいいかな?
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