上海の伯爵夫人 (2005) 

文字数 946文字

【イシグロさん、真田さんを誇りに思いました】 2008/8/13



ジェームズ・アイボリー演出というだけでも期待値高まるなか、
真田さんがレイフ・ファインズと台詞回しするなんて噂まで飛び出した日には、
是非是非のDVD待ちでした、いやはや長いお預けでした。
ところがびっくり、脚本がカズオ・イシグロの書き下ろしだって!
サプライズおまけつきでした。

はい、そうです、
僕はブランドに弱いヘナチョコです。
アイボリー/イシグロ組は、《日の名残》しかないのですが、
僕には高級ブランドです、アルマーニ以上かも。
そう思えば、本作に漂う上海疎開の怪しさはイシグロの怪作
「わたしたちが孤児だったころ」を思い出させてくれました。

当時、上海には国々の思惑が渦巻いていました。
内戦状態にまでこじれた中国共産党、国民党、各地軍閥、
植民地主義列強のイギリス、フランス、ボルトガル、
後発組ながら中国侵略をたくらむ日本、
ようやく世界戦略に腰を上げるアメリカ、
そんな混沌の街、上海に吸い寄せられるように集まりきた国を追われた人々が
本作の登場人物です。
亡命ロシア貴族一家、ユダヤ人一家、外交の叡智に絶望した盲目のアメリカ人、
そして、中国侵略を夢見る日本軍関係者らしき身元不詳男。
アメリカ人が実現した夢のBAR「THE WHITE CONTESS」で
彼らが織り成した夢と現実。
貴族の尊厳の空しさであり、消え行く階級の儚さ卑しさ。
人生の虚無から立ち戻る勇気とそれを支える愛。
親子の海より深い愛情と信頼。
冷徹な野望に隠された紳士の友情。

ジェームズ・アイボリーは健在でした、まだまだ進化しています。
望むべく、上海の街並みにリアリティを、そのカオスを再現しています。
レイフはまたもや、陰のあるハンディキャップ人物を演じて魅了してくれます。
レッドグレーブ一家がまとまってるのは当たり前なのですが、
彼女たちの憎しみの家族の演技はスペシャル、いえ国宝級でした。
カズオ・イシグロの世界に感じる、隠しおおせない微かな日本の匂いが僕は好きです。
今作品では、真田さんのダンディズムが強烈で、
当然その香りの余韻がなかったのは残念でしたが、
そのくらい真田さんは重要な役割を果たしていました、
もはや言葉の危惧などないようでした。

イシグロさん、真田さんを誇りに思いました。

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