凪待ち (2018) 

文字数 783文字

【白石フィルム ブランド確立】  2019/7/9



オープニングとエンディングロールに本シネマの強い自負をみた。
シネマ冒頭 「白石和彌作品」の文字が掲げられる。
エンディングはさらに強烈だった、
白い紙きれが海に沈み瓦礫と一体となる。
最後になって僕は本シネマが大災害の鎮魂歌であったことに気づく。

物語のほとんどがギャンブル(競輪)依存症のダメ男のお話だ。
川崎の仕事を失って内縁の妻の故郷に戻っても、ダメぶりはいささかも変わらない。
職人としての能力はあるのに短気で手が早い上に、禁じていたはずの競輪にまた手を出す。

競輪場がなくても、どこにでもかけ事を引き受ける仕組みはある。
その「吞屋」ともひと悶着を起こす駄目ぶりに加えて、
せっかく築いてきた家族の絆を断ち切る殺人事件。
物語は、暗い奈落にまっしぐらに落ちていく。
僕はただじっと、白石フィルムの奇跡を願っていた。

殺人事件の真相、老漁師の意外な素顔、
それ等は決して予想できない展開ではなかったし、
シネマ随所にその伏線が張られていた。

繰り返しになるが、エンディングの海底シーンに圧倒される。
ダメ男が流した紙一枚が海に飲み込まれ、悲しみと対面するのだった。
津波で町を家族を捨てた母娘が愛したダメ男、
「川崎出身って言っても東京と同じだべ」と言われるダメ男、
荒くれるほどに東京言葉が飛び出すダメ男、
被害の無かった東京圏はもうすでに、あのカタストロフィーを忘れてしまったのか?

そんな東京人の代表のダメ男、まるで被災地の痛みに気づかない。
災害の傷跡は修復されても、人の心は決して癒されることはないことに気づかない。
津波で新しい海に変わった石巻の海、
ダメ男はそこにほんの一筋の希望を見たに違いない。
そう、彼は被災者の心をもう一度つなぎとめる触媒だった。

新しい家族作りが始まる、小さな未来への灯が見えてきた。
白石フィルム、盤石の出来具合だった。
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