名もなき生涯 (2019)

文字数 925文字

【小さいけれどひとつの希望】  2020/3/16



実話をもとにしたテレンス・マリック・フィルム、
マリックの究極の美映像があれば物語性はどうでもいいとは思うが、
それでもストーリーがあった方が顧客には親切なことは間違いない、
たとえ,マリック心酔者、崇拝者であってもだ、僕のように。

オーストリアの山の上(主人公は雲の上と言っていたが)で慎ましい生涯を送っていた夫婦を
襲う抵抗できない悪夢、
ナチスドイツの戦渦に巻き込まれたフランツ&ファニ、
ふたりの正義(善)を貫く物語をマリックは例によって執拗に追及する。
徴兵での訓練を経験した夫は、ヒトラー崇拝の不自然を心の底で感じる、
そして再度の召集を拒否。
農民のフランツにとってイデオロギーとか信条とかではなく
自分には到底受け入れられない根源的な不合理を感じる。
唯一の助言者である教会にすがるも、祖国の為に我慢しろ
・・と全く頼ることもできないまま、逮捕、投獄、裁判と進む。

ヒトラーの出身地オーストリア、ドイツに吸収され、国民はナチスに屈服する。
そんな中でのたった一人の抗いが全編で描かれる。
夫を無条件で支える妻、小さな山奥の村でありながら彼ら家族を迫害する
以前のコミュニティの人びと。
それは村の不名誉であり、村人を貶めるものだという根拠での暴力である。

あまりにも懐かしい山々、牧草、岩山、清流、大きな空と対になって暴き出される
人間のエゴ、卑しさ。

政治思想でもなく、宗教倫理でもなく、人間が不条理だと思うだけで、孤立する世界。
そういえば太平洋戦争さなか「非国民」として仲間を貶めたのは日本人だった、
その理由に大した意味もないのに。
ほとんどの人間は体制に巻き込まれて口を閉ざし、身を控える。
そんな中にも、本シネマのような純粋なそして頑迷な「善」を一身にまとった人間もいた。

「善」が必ず「邪悪」に勝つという保証などないことは、
現在の世界を眺めても納得することができる、残念なことだが。
しかしながら、そんな人たちがいたことは、
もしかして僕のような平凡な人間にとって一つの小さいけれど「希望」になる。

「不正をするより、された方がまだいい」というまるで救いのない台詞すら僕の心に響いた。

マリック・マジックを久しぶりに拝見した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み