つぐない (2007) 

文字数 807文字

【郷に入っては郷に従え】 2008/10/12



郷に入っては郷に従え・・・・とはうまい表現ではないか。
イギリスの心はイギリス人に任せるにかぎる。

この癖のある、一筋縄ではいかない、それでいて壮大でファンタジックな名作を、
どう映像化するものか?
マキューアンファンとしても興味津々で拝見させてもらった。
イアン・マキューアンはどうやら映画化には積極的に絡みたがる小説家らしい。
それも、いい影響力を持った部類の方のようだ。
文字を映像に置き換えるプロセスにこだわりのない、
理解多き原作者と組む幸運を、ジョー・ライト監督は2作目にしてかちえたようだ
名作「贖罪」はシネマ「つぐない」として別個の興奮と知性を喚起してくれている。

それにしてもライト監督の力量は本作で見事に花開いた。

■第二次大戦直前、上流家庭に予感される階級制度の亀裂。
■身分を越えた愛情の交錯と憎しみ。
■一気に戦場、それもダンケルク撤退の惨劇の中の不条理。
■戦争に再度引き裂かれる悲恋と消失。
■ロンドンの銃後の戦いの悲哀。
■現代にまたもスリップしての「贖罪」。

こんなにもイギリス的なテーマを複数同時に、
時間を越えて整理していく監督力に、なにより感謝する。

個人的の好みではあるが、彼の俯瞰シーンは神の目のようで美しい。
ダンケルクの地獄、岬に立つコテッジの天国が象徴的だ。

主人公の台詞として、
「文字で城といえば、森や石垣を読者は想像してくれるのに、劇では俳優に頼るしかない」
とプレシャーをかけられた俳優人も素晴らしかった。
最終章でのバネッサの独白シーン、
その確信に満ちた「つぐない」の台詞まわしに、
そのクローズアップ映像に、つい背筋を伸ばしている自分がいた。
キーラ、ジェイムス、もイギリスのエッセンスを余すところなく披露してくれる。

キャスト、スタッフ全員のジョン・ブル魂がひしひしと伝わってきた。
やはりイギリスの心はイギリスの手で・・・
当たり前のことに感じ入ってしまった。
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