チェンジリング (2008)

文字数 1,234文字

【いつものようにすべては美しかった】 2009/2/22



もうすぐ79歳になるクリント、
普通はこんなシネマを撮ると老害とか言われるんだろうが、
執念のクリントシネマ、
壮大なるクリント定番シネマと称えておこう。

前作「硫黄島からの手紙」では、かってなかった戦争テーマ、
それも日本軍人を描いたきわめて異色なシネマだった。
果たして「硫黄島・・・」以前の名人域に達していたクリント監督作品が復活するものか?
この2年僕は待ち望みながらもじっと息を潜めていた。
単に新作を待ち望んでいたということでもない。
正直な想いを呟けば・・・
「おかしなシネマをみせないでね」だろうか。

そして、
《チェンジリング》
本シネマはクリントのシネマ作法をいささかも狂わせることなく、
極み領域に立ち戻っていた。

では今シネマにおいてクリントのシネマ作法を裏付けているものとは何か?
■監督としての矜持
観客が賢いことを前提にして不要な説明はしない。
シネマは観客が受け取って判断するもの。
観客はシートに座った視線しかないとすれば、
カメラが三次元を再現する動きをする。
などなど徹底したカスターマーサティスファクション精神である。

スタッフを信頼し、大きな権限を委譲する。
有能なるクリントクルーはメンバー不変で生産性も高く彼の節約精神を支えている。
今作でも、カメラがまさに観客の目のように前後左右上下に動き回る。
代表的な死刑執行シーンの緊迫感、恐怖は観客の感情に同期しながら観客を突き放つ。

キャストに関しても、
今回も一旦アンジェリーナを信頼すればとことん役作りを任せる。
演技はあくまでも素材として監督が料理するものだと確信しているから。
アンジェリーナ・ジョリーとの信頼感は本シネマのすべてだったのかもしれない、
パーフェクトだった。

■ビジネスマンとしての矜持
出資者とは利益還元という別次元の信頼関係を築く。
製作費用を倹約し、スケジュール内で完成させるのはクリントの大きな喜び、誇りだ。
いわゆる巨匠といわれる監督と根本的に異なる。
利益を確約する代わり、出資者には自分の企画を認めさせる。
アンジェリーナ一枚のシネマでも充分なところに、
きちんとサスペンスサービスを織り込む念の入れ方。
自分の信じる商品を追求、挑戦するファイティングスピリットは、
ビジネス勝利には必須だ。
今回の偉大なる定番への復帰はまさに大きな賭けであったが、見事に成功した。

■人間クリントの矜持
常に弱者を思いやる視点を忘れない。
やや、時代に先行しすぎる嫌いもあるが、
カーメル市長に当選し改革を断行したように、そこには実行が伴う。
またしてもLAPDの腐敗を糾弾し、
不法な身柄拘束を白日の下に晒し、
名も無き人々のパワーを信じたのは
今の時代への警鐘なのだろうか。
一方では宗教への懐疑的姿勢が今回は影を潜め、
神の力(実際は聖職者)を容認していたのが意外だった。
クリントの成熟と穏当を垣間見て少し複雑な気持ちにはなる。

結論:
偉大なる定番とはいえ、いつものようにすべては美しかった。

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