東京家族 (2012)

文字数 843文字

【家族を大事にします、山田監督。】 2013/1/20



『小津安二郎監督に捧げる』の言葉の後に
「監督:山田洋次」のクレジットがドンと据わり込んでいた。
このエンディングロールが本作の全てを語っている。
加えて、シネマタイトルで変更している「家族」が、
今作は山田洋次シネマであることを語っていた。

山田監督があまりにも有名で評価の高いオリジナル「東京物語」のリメイクに
手を染めた経緯は知る由も無い。
ただ、とある番宣で「東日本大震災で当シネマ製作が一時中断した・・・云々」を監督が言及していた。
まったく僕の妄想かもしれないが、
回のリメイクは「大震災からの復活」をレバレッジとした
「日本人復活」ではなかったろうか。

オリジナルシネマは今年還暦を迎えた、勤め人でいえば定年退職の時期である。
オリジナルの評価は戦後の価値観大逆転、
極論すれば日本的美徳を一切放棄した経済優先の日本人を静かに悲しんだ点にある。
その後、日本は哀しいことにこの傾向を深め突き進んできた、今まさに息切れ状態ではないか。
そして現在、まさにリアルタイムでの「東京物語」が再現された。

「震災中断」を逆手に取ったような脚本修正があったであろうことは、
ストーリーの重要な2箇所のシーンで確認できる。
ひとつは、同僚の仏前にお参りした際のエピソード、
そして今作のメインストリームとなる昌次と紀子カップルの出逢いだ。
二人は震災復興のボランティアとして被災地で知り合い、一瞬で恋に落ちたという。
この件(くだり)を打ち明ける昌次とそれを笑顔で聞く母「とみこ」、
会話が父と母の愛情に展開する・・・シネマ一番の見所だった。

そう、今リメイクはこの若い普通の二人が「大いなる希望」になっている。
「東京物語」が高度成長の予感と裏腹に「家族の崩壊」を示唆したのとは反対に、
「東京家族」は経済停滞、大災害の中から「家族の復活」を宣言した作品となっていた。

父、周吉が紀子に「昌次の面倒を見てください」と懇願する。
山田監督が僕に「家族を大切にしてください」と言っていた。

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