アラモ (1960)

文字数 1,146文字

【清清しさが印象的】 2007/9/30



デューク・ジョン・ウェインは僕のヒーロー、
それも物心ついたときからのヒーロー、刷り込まれたヒーローだ。
スクリーンの中のデュークに、僕は絶対の正義を位置づけていたような気もする。
いっぽう、ハイエナ・リチャ-ド・ウィドマークは僕の悪のヒーロー、
子供はともすれば個性的かたき役に憧れる。

デュークが私財を投じて製作、監督、主演し、
ウィドマークがサポートした本シネマ、僕の想いどれほどのものか・・。

デュークは、正統派西部劇スターとしての高い評価がある一方、
愛国的タカ派映画人のイメージが強烈でもある。
《硫黄島の砂》1949年、
《史上最大の作戦》1962年、
《グリーンベレー》1968年 などがその代表とされる。

本シネマは、まさにその間隙の時期において
愛国心を鼓舞するヒーローテーマ満艦飾である。
確かに時代背景は米ソ冷戦が確立され、
共産革命がアメリカの裏庭キューバで勃発して緊張が高まっていた。
ちなみに日米安保条約が結ばれたのもこの頃だった。

時代が大きく変わろうとしているそんな時、
アメリカの果たす役割の精神的バックボーンを唱えたのが本作。
デュークのシネマ製作コンセプトは、想定する彼の人柄どおり「まっすぐで純粋」だ。

テキサス独立の防波堤として全滅したアラモ砦の200名弱の勇士たちは
当然英雄として描かれ、
同時にサンタ・アナ将軍下の7,000名ものメキシコ軍も
統一のとれた近代軍として敬意を持って描かれる。
両軍の男たちに共通するのは「戦う男たちの勇気とプライド」。

デイビー・クロケット元上院議員(デューク)、
ジム・ボウイ大佐(ウィドマーク)、
トラビス大佐(ロレンス・ハーベイ)。
三人の自己主張する男たちに結ばれる友情と命を惜しまない責任感が
臆面無く、正々堂々と伝えられる。

時間軸をちょっとずらしてしまえば、
「騎士道」に代表される善き時代の男どもの命がけのプライドゲームにも見える。

この後、ベトナム戦争の泥沼に突入するアメリカ、
デュークは邪心無く祖国の行く末に懸念の一石を投じた。
アメリカを愛するのと同じようにメキシコを愛する人たちがいた・・・・
果たして世界の警察たらんとするアメリカの正義は奈辺にあるのか?

残念なことに一映画人の心意気で歴史が動くことも無く、
逆にデュークは好戦的タカ派のイメージを背負うことになる。
心ならずもアメリカが望む英雄を演じ続けたデューク
・・・僕はそう信じている。
本シネマはデュークの無垢の証明でもあるが、
理想の御伽噺はいつの世も受け入れられ難いものだ。

当時子供心に《アラモ》の清清しさが印象的だった、
その後見直すたびにその思いは変わらない。
ジョン・フォード仕込のデュークが示した庶民感覚の善悪判断、
今の時代こそ貴重な検証素材かもしれない。
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