悪人 (2010)

文字数 860文字

【妻夫木さんにも100点】 2010/9/12



このシネマの感想をまとめ切れなくて困った。
そのくらい多様な視点、論点を潜在させた優れものシネマに仕上がっていた。
原作・脚本にたずさわった吉田修一さんのメッセージそのものと言い換えてもいい。

今回の映像化は原作・脚本兼任のリスキーさを払拭してくれた。
シネマはタイトルにもなっている【悪人】とはそもそも何者か?
を執拗に追い続ける。
執拗さの産物である「けだるさ」がスクリーンに現れるその端から、
鋭利でかつ美しいカットがその緩みを引き締める。
シネマのアドバンテージとはこれぞ!・・・と心で拍手した。

映像化の最たるものは主人公のビジュアル化。
深津絵里さんはモントリオールでご褒美をいただいたほどだから言うことなし。
ご贔屓の妻夫木さんも予想を覆すノンスター演技に徹していた。
なかなかできる業ではない、彼にも100点差し上げておきたい。

ちょっと重たい、重たすぎるテーマがこのシネマでは
僕にはわかりやすく、理解しやすかった。
人が生きていく、生き抜いていく過程では善も悪も一緒くたに全身に浴びるもの。
我が身の利益を優先して何が悪い。
このシネマの登場人物はみんなそう考えて生きている。

変化の無い日常に押しつぶされそうになって、見知らぬ異性を求める主人公たち。
奔放な男関係(これって死語かな?)が生きがいになってしまった被害者。
娘を理解できないまま結局は生活に妥協してしま被害者の父。
自分の責任だと認め世間に許されようとする殺人者の祖母。
自分の罪をまったく理解していない動物の親のような母。
馬鹿笑いが伝染しそうな下劣な大学生。

そして、
殺人者は悪人だと一刀両断してしまう世間一般の人人人人。
世間で言う普通の人は実は、間違いながら悪を為しながら日常を生きている。
普通の人が人殺しに切り替わる瞬間をどれほどの人が知っているのか。

毎日おびただしい悪人の情報が否が応でも飛び込んでくる。
すべてを知ったような気になってはいないか?
もしかして、なんにもわかっちゃいないのかもしれない。
誰が悪人なのか?・・・・も。

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