敬愛なるベートーヴェン (2006)

文字数 658文字

【嬉しいギフトをもらった】 2007/11/10

2度、思い切り心揺さぶられる。

ストーリーの核として番宣されているところの、
「第9交響曲」初演の指揮台の前にうずくまり、
追い詰められた偉大なる作曲家を助ける写譜士アンナ、
二人が名曲を世に出す瞬間の奇跡だった。
「さぁ、やってくるぞっ・・・」と身構えていたけど、
そんな準備をいとも簡単に蹴散らす感動だった。
ひとえに「歓びの歌」が有する高揚感とシンクロした
「音と映像の結実」だったのだろう。

実際に第九を歌った経験がある身としては、はなはだ恥ずかしい限りだが、
歌う以上の歓びを本シネマから体験させてもらった。

二度目の揺らぎは極めて穏やかな感情だった、
それを表すとすれば「感謝」になるだろう。
病に倒れたベートーベンが、眠りの中で湧きあがった旋律をアンナに口頭で伝える。
ベートーベンの意図する構想を書きとめながら、
アンナはいつか彼と一緒に曲を作っていた。
互いに自分の利益のため利用しあっていた二人が、
ここに至って本物の協力者になった。
ベートーベンに認めてもらう目的のアンナが、
彼のコピーといわれながらも、音楽家の使命を覚る。
他人を軽蔑することでしか評価できない大音楽家が、死を前にして素直な真情に戻る。

作為的といってしまえばそれだけだが、
ストーリーテリングのうまさで魅了させる最初の感動、
エド・ハリスとダイアン・クルーガーのがっぷり四つの演技で
心温かくしてくれるもう一度の感激。

予想外の贅沢なギフトだった。

神は音楽家に才能をギフトするという。
ぼくも今回嬉しいギフトをもらったようだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み