アンフィニッシュ・ライフ (2005)

文字数 729文字

【人間の誇りの象徴】  2007/7/28



ワイオミングの山々と平原、
息子を亡くしたことから立ち直れない男、
熊に襲われて半身不随のその男の友人、
DVから逃れてきた息子の嫁、
男には知らされていなかった孫娘、
女を追いかけてくる暴力男、
そして、囚われている熊。

特別に気を惹かれる素材、事件が起きるように思えないまま、
ハルストレムの紡ぐアメリカ大地の詩に心地よい時間を過ごした。
だからといって凡庸な出来上がりなどではなかった。
老いたカウボーイが取り戻す精神の自由と生きる喜びが息づいていた。
家族の繋がりを味わう喜びが素直に感じられた。

最初、この広大な自然のなか、亡き息子の墓に毎日語りかけるカウボーイが哀れ。
《黄色いリボン》のデューク、《シェナンドー河》のジミーと類似するシーンである、
しかし、大きく異なるのはこの老カウボーイが泣き言と思い出で生きていること。
美しく雄大な平野にぽつんと置かれた墓、その寂寥感が強かった。

老いたりといえどもカウボーイらしい激情の行動力と男らしさは、
その悲しみとのアンバランスをことさら際立てていて切なかった。
この家族がもう一度確かな生活をやり直そうと決意したきっかけは、
「熊を放した」こと。

熊は檻のなかで囚われていてはいけない、
気高く、自由に山に戻して欲しいと願う友人、
熊のPTSDに苦しんだうえの選択だった。
このとき彼は熊を人間の誇りの象徴としていた。
熊の力強くも獰猛な姿は人間には崇高にすら見える。

ジョン・アーヴィングも処女作で熊を自由に放っている、
かの国における熊のスピリッチュアルな位置づけが見えてくる。

ハルストレム監督だから、これほどの名優が集まるのか?
名優たちが集まるから、こんな素敵な演出ができるのか?
どちらも真実だろう。
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