朝が来る (2020)

文字数 934文字

【不思議なミスマッチ】 2020/10/26



辻村深月小説と河瀨直美フィルムは食い合わせが良くないに違いないと、
…そんな不純な興味をいだいて拝見した。

物語りの大きな流れは、特別養子縁組システムで生まれてすぐの子を
養子にした今は幸せな親子三人夫婦のところに実の母親が現れて、
こう切り出す…「子供を返して!」と。

ここまでは予告編の事前情報だったが、いつもの様に予断のための情報は
入れないままでいたら、
案の定というか河瀨フィルムは いつもの通り微動だにせず、
森、木々、枝葉、木洩れ日、波、風、海、鳥を映し出す。
オーソドックスすぎて、果たしてこのミステリアスな愛憎物語が最終点に
至るものかと心配してしまう、その最終点は無論知りもしないのにではあるが。

本原作は未読だったが、
「家族」・・その中でも母と子供の関係を養子システムの両端から公平に描き始める。
そのプロセスでNGOの養子縁組活動も正面から描かれている。
そのエピソードでは意図的にドキュメンタリータッチの画面を使って、
その実情をレポートする(おそらく実在の方達か)。
子供を育てられない妊婦の事情、その子供を無条件で受け入れる新しい家族の喜びは、
一方の立場からだけでは決して伝わってこない。

シネマとしては子供が産めなかった夫婦、子供を育てられなかった女性、
双方の叫びを丁寧に見せてくれる。
僕は、その狭間にいて自分の意見など何の役にも立ちそうもないことに気づく。
ふつうの家族からは想像もできない決意と嘆きが、そこにはあった。

物語りは時間をほんの少しだけ行き来しながらも、
二つの家族(ひとつは生みの親ひとりだが)を取り巻く
厳しい現実生活をも冷酷に切り出してくれる。
特に養子縁組NGO代表者が重要なキーとして作用する。
この代表を演じた浅田美代子さんが
あっという間にポスト樹木希林さんになっていたのをはじめ、
重要な登場人物の時間の経過が、メイクではなく演技者の内側から滲みださせる
心の襞で表現されていた、
これこそがシネマの醍醐味だった。

劇中にも何度も口ずさまれる主題歌が、お約束でエンディングロールにも流れてくる、
最後のフレーズを歌う子供の声が聞こえた。
そして、ようやく子供の気持ちも分かった、
そうだね、肝心なのは君の気持だった。
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