トゥモロー・ワールド (2006)

文字数 1,091文字

【映像と音響の凝り心地】 2007/4/7




近未来破滅SFストーリー・・・小さいころから僕の大好きなジャンルです。
映像にすると、この「近未来」が曲者で、
フィクションとリアリティが綱引きしてなかなか満足できません。
これは? 
大丈夫でした・・イエイエ大成功してましたね。
キュアロン(脚本・監督)、ルベッキ(撮影)の
美しく惨たらしく静謐で荒々しい映像美を堪能しました。

主人公(クライヴ・オーウェン)が「世界一若い人類死亡」のニュース速報を唖然と眺めながらコーヒーショップを出てテロに遭遇するまでのワンカット、
これは本編のど初っ端なのに、
この長廻しで実は近未来状況を端的に一気にブリーフィングしてしまいます。
爆風に吹っ飛ぶ主人公、その後画面奥から、耳障りなノイズ(鼓膜障害のツーンという音)が次のシーンまでかぶさってきます。僕の耳がおかしいのかと錯覚しました。

この冒頭シーンに代表される映像と音響の凝り心地が
全編「近未来破滅」の雰囲気を醸しています。
荒筋は、人類が行き止まりに到達する、
下世話に言えば子供が生まれない近未来が「管理国家」、「難民」、「テロリスト」、
「サバイバリスト」、「救済団体」など幾分ステレオタイプなグループを軸に
描かれていましたが、観所はかって経験したことのないディテイルの数々。

画面のどこかに、必ず「近未来破滅」のフラッグが起ち翻る如し
美術、道具が設定されてました。
絶望の社会と人類を映像にするとこうなるのでしょうね、
あまりの細やかな配慮に涙しそうでした。

これと対極にあるのが、世界が破滅に突き進むなか、正気を保とうとする英国政府中枢部。
ここに見たのは混沌から一見隔離されたように見える、正常に見せかけた狂気でした。
文化大臣の部屋、床と壁は光が眩しく反射するホワイト、
大きな天井下の長いダイニングテーブル、
「ゲルニカ」を背に、ワインつきのランチを共にする主人公。
むむぅ、一見キューブリックタッチの未来映像?
ロボトミー施療らしき若者がアレックスですって?

それはさておき、
主人公がピカソ、ミケランジェロ(ダビデ像)のコレクションの意味を
大臣に問いただす・・・。
引き継ぐ相手のいない天才の作品がこんなにも「破滅」を悲しく象徴することに気づきました。
逆説的ですが、やはり映像の説得力でしたね。

破滅SFのヒーローにぴったりはまってたクライヴ・オーウェンのおとこ気、
正統英国紳士マイケル・ケインの良識、
ジュリアン・ムーアの闘志、
そして英国の舞台が近未来SFそれも破滅タイプにはよく似合ってました。

破滅SFのエンディングとして定番の、
「小さな、かすかな希望」が残されます。
めでたし。


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