マイ・ブロークン・マリコ  (2022)

文字数 667文字

【攻守変わる主演・助演の妙味】 2022/9/30


質の高いシネマでは、主演と助演の不思議な化学反応と合成物を見届けることが多々あるが、本シネマにおいても主演(永野芽郁)と助演(奈緒)がそれを実証してくれた。
なによりもまずは二人の献身的演技ワークを讃えておきたい。

物語の大筋は暗く悲惨である。
父親から身体・精神両面で暴力を受け、母親からは見放されたマリコ(奈緒)が自死する、その死を合理化できない親友シーちゃん(永野)が遺骨を奪ってマリコの想いを成し遂げようとする旅で巻き起こるエピソードが粛々と映像になる。
暗くて悲惨とはいいながら、永野渾身の吹っ切れた演技のおかげで何度も笑いを誘われる救いの場面があった。
周りを不幸にさせる悲観的人生観のマリコと違って、ブラック企業のクソ上司にも決して負けない生命力にあふれるシーちゃん、
シネマはマリコの死から始まって、旅の途中の折々にフラッシュバックするマリコとシーちゃんの切ない友情シーンに終始する。
後悔するのが人間とはいえ、唯一の親友なのに助けることができなかった後悔に苛まれるシーちゃんが旅の最後で巡り合うちょっとした奇跡。
物語りとして大掛かりな仕掛けはない、かけがえのない友情を訥々と語りかけるだけだった。

最初に述べた通り、主演と助演が場面によってはその役割が攻守逆転する緊迫感が、安堵の涙に変わるカタルシス。
哀しいマリコの一生を暖かい微笑みで終わらせる、そこにタナダユキ監督の愛を感じた。
シネマでしか表現できない壊れた心と無償の友情の奇妙な抱合、小憎らしい名作だ。
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