黄金を抱いて翔べ (2012)

文字数 716文字

【感無量、「名サスペンス」スクリーンに甦る】 2012/11/4



パーフェクト映像化を絶賛支持するものだ。
20年、この激動の20年を経て名作サスペンスがシネマで甦った。
原作の複雑でいて野放図な犯罪のディーテイルを、
特に犯行グループの心理を描ききれるものではないと以前から思っていた。
極端な言い方だが、シネマ化しても、それって面白いのか?・・・と危惧すらしていた。
そのうちすっかり記憶の中から消えて、20年近くが経過していた。

本作に接して不思議で仕方が無いのは原作に忠実な脚本であるのに、
時代差異感覚がないことだった。
その理由は実に明白だ。
原作者(高村薫氏)が20年先の社会を見据えていたからであろう。
大阪の猥雑な町、そこに潜む元過激派の鬱積、父と母と息子、
北朝鮮工作員、ITセキュリティー・・・などなど。
ただし、20年前のノスタルジアを懐かしむサスペンスではない。

細部は現在のスペックに丁寧にアップデイトされここにも違和感は入り込んでこない。
北朝鮮の工作、公安警察と左翼のもたれ合い、裏社会同士の連帯、
人生閉塞感への鬱憤を細やかに修正した脚本の力があった。

それに加えてのキャスティングのすばらしさ。
主演格の妻夫木さん、浅野さんはいまや日本を代表する俳優、キーマンとしての西田さん。
豪放磊落な浅野、暗い粗野な妻夫木、運命に翻弄される西田・・・
俳優の競演を観ることができる。
犯罪者ではなく、主義に生き、主義に飽いた人たちが、
俳優たちによりスクリーンに息づいていた。
妻夫木、チャンミンの秘めたる愛情も映像化されて理解が深まった。

日本シネマとしては「男臭さ」をミッションとした制作意図が貴重であり、
そしてそれは見事に完遂されていた。
文句なし。


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