冬の華 (1978)

文字数 857文字

【これが最後のやくざ映画だよ・・・】 1978/9/10



健さん久しぶりの東映での仕事・・・・・
それも「やくざ映画」だということで思いあぐねること我が心中は複雑だった。
健さんが古巣に戻ったのは例の《幸福の黄色いハンカチ》と
日本アカデミー賞のおかげだとはよくわかる。
東映がその話題性だけに食いついたのだろう。

そこに古い様式一辺倒の貧困な、十年一日の企画が用意されることを恐れていた。
ところが脚本は,あの倉本聡だとのこと。
少し安心したものの、TV「前略おふくろ様」、「あにき」タッチの
甘ったるい作品に仕上がって、百貨店の食堂メニューにならないか?
あるいは山田洋次の向こうを張って、
とてつもなく気持ち優しい「やくざ映画」にならないかと心配だった。

個人的には好感の持てる作品だった。
ただし異質な様式をやくざ映画に持ち込んでしまった。
つまりは、かって東映やくざ路線はひとつの様式美の結晶であり、
健さんはその世界でのエースでありヒーローだった。
健さんは以前どおり、東映風に一人つっぱっているのだが、
周りのいつもの連中がものの見事に変えられてしまっている。
東映のやくざ役者さんが倉本塾でしごかれた結果なのだろうか?

そう、これは倉本聡の世界である。
アナクロの極みともいえる「健さんの忍ぶ姿」を
虚像であることを隠す気配すらなく、
堂々とスクリーンに映し出している。
それは、
網走番外地の捨て鉢でもなく、
昭和残侠伝の男の意地でもない
・・・まるで無意味にすら感じられる。
「これが最後のやくざ映画だよ」とでも言いたげである。

健さんにとって本シネマは旧いやくざ映画との訣別であり、
新しい様式のスタートになるのだろうか?
肝心のテーマである「足長おじさん」なのだが、
まったく余計なお話だと思う、必要ない。
メインテーマ不要とは穏やかでないが、
健さんのアナクロの証として必要だったのであれば、
今回は上手く作動しなかったみたいだ。

「・・・黄色いハンカチ」の後、
れだけ肌理の粗い作品をこなさなければいけなかった健さんも大変だ。
さて、「野生の証明」はどうかな?



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