インビクタス/負けざる者たち (2009)

文字数 839文字

【それでも残る熱い想いと爽やかさ】 2010/2/7



熱き想いと清清しい安らぎを一度に体験できる。
クリントならではの職人技、いや名人芸に僕は洒落た言葉が選べない。

素材はとてつもなく重い人種隔離政策の悲劇なのだが、
実はスポーツ(ラグビー)にメタファーされた輝きに昇華されている。
あの、マンデラ大統領がスポーツを人種軋轢解決の鍵として
巧みに操作したことなど知らなかった。
そんな政治臭芬芬とする大統領を信頼する一人のラガーマン。
困難な世界に聡明なリーダーが必要であるように、
リードされる素朴な善人が欠かせない。
二人が交錯する世界の未来は険しくとも美しいものであって欲しい。
ちょっとセンチになってしまうほど、
僕は上手くクリントにはめられてしまったのだろうか。

クリントがスポーツの世界を描くのはきわめて稀だ。
「アイガーサンクション」、「ダーティファイター」で見られる片鱗も
正統スポーツとは程遠い。
しかもこのストーリーは実話。
そんなわけで、映像は可能な限りドキュメンタリー風になっている。
素人っぽい動きがあってもまるで気にしない、動じていない。
どっちかというとそんなカットを嬉しそうにつないでいる。

マンデラ大統領を扱っただけに、クリントにしては珍しく饒舌だ。
政治家は喋るもの、まして南アに革命を起こした張本人だけに喋らせないわけにもいかない。
モーガン・フリーマンも一世一代の役に献身している。
前半の饒舌に付いて行けず少し遅れ気味になっても焦ることもない。

後半は、スポーツワールド。
ラガーメンの相打つ肉体の軋み、肺からこぼれる呻き以外語る言葉は必要ない。
タイムアップの秒を刻むスタジアムの時計を見上げる
キャプテン(マット・デイモン好演)の眼差し。
勝利の瞬間をギリギリと押し合うスクラムの肉体達。

クリントの世界には言葉はいらない、いつものように。
クリントが駆使したのは普通のテクニックだった。
どこにも特別な仕掛けはなかった。
それでも残る熱い想いと爽やかさ。
クリントの偉大さがひっしと伝わってきた。

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