TAR/ター (2022)

文字数 776文字

【TARの世界に戻ったTARに幸多かれ】 2023/5/12



トッド・フィールド監督のオリジナルストーリーであり、かつケイト・ブランシェットのために書き下ろしたものだと伝えられているとおり、シネマを拝見していてその熱い思いがヒシヒシと伝わってきた。 本作すべてはケイト・ブランシェットに捧げられており、彼女がその期待にきっちりと応えるところが観どころである、158分間が長く感じるかどうかはケイトをどう愛でるかにかかわっている。

冒頭二つの印象的シークエンスから始まる。
公開インタビューでの緻密な音楽論、人生論、はたまたジェンダー論がそのひとつ。
もうひとつはジュリアーノ音楽院での授業の中で偏見に満ちた学生を論破するところ、それもコテンパンに。
いきなりの女性ス-パーマエストロ登場にここで引いてしまうと物語の流れについていけないかもしれないが、ぼくは拍手喝采していた。

このあとはベルリンフィル首席指揮者としての権勢を誇るがままの展開となる。
副指揮者を解任し、かっての教え子の活躍を封じ、その経緯を隠蔽し、オーケストラメンバー採用を私物化し、娘をいじめる相手を脅し、先輩長老に引導を渡し・・・周りから見れば「パワーハラスメント」以外の何物でもない毎日を過ごす。
自分自身はレズであることを公表しており、それすらパワハラの武器にする。

う~ん 、こんな女性指揮者がいてもおかしくないし、彼女の公演も聴きたいし、本も読んでみたい。それは所詮他人事、周りの関係者の苦労たるや想像を絶するものに違いない、独裁者に味方はいない。 現代は(現代も)弱肉強食の世界であることに変わりはない、そして隙あらば足元をすくわれる。

予告編で意味ありげに語られていた「驚愕の結末」、
しかし、ぼくは彼女がとても幸せそうに見えた。
TARらしい世界に戻ったTARに幸多かれ。
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