パンズ・ラビリンス (2006)

文字数 1,047文字

【血、血、血の尊さ】 2017/10/13



ブラッドライン、血の切なさが全編を通じて僕の全身に覆いかぶる、
物理的にも筋肉のこわばりを覚えるほどの緊張感が持続した、
・・・けだし秀作。
平和ボケした小賢しい僕を軽く一蹴してくれた強烈骨太シネマだ。

1944年のスペイン・・・といわれても、
その歴史的背景を思い至るには,いささかの時間と枯渇しかかった知識を動員する必要があったぐらいだったが、フランコ政権が国内独裁圧制にもかかわらず第二次世界大戦を中立国として乗り切った、歴史的皮肉な「影」が本シネマのテーマ。
しかしながら、
独裁軍事政権の暴虐、市民軍の悲惨、それに巻き込まれる民衆の悲劇といった、相も変わらないパータンから、程遠いところに本作の真理を感じた。
皮肉ではなく、いまさらスペイン内戦の正義を論ずるほど現代世界情勢は暇ではない。

それでは、
本作の暗黒部分を象徴しているかのようなおどろおどろしい「おとぎ話」がメタファーするものは一体何なのか?
少女が彷徨い入るおとぎの世界と現実シーンとの境が見えない焦燥感は一方では観るものを捉え魅了する。美しくて暴力的な映像、そこで感じ取ったのは「死の運命を背負った人間の、生への本能」だった。
別の言葉で表せば、死が運命付けられているからこそ人は「血」に生きる。
主義?理想?信念?ましてや国家?金貨?のために生きることなどできない。

■父
「将軍の息子」というプレッシャーの中、どう考えても汚れ仕事としか思えないゲリラ狩りを任される国軍大尉。父の形見の時計を肌身離さず持ち、軍人の血を継することだけが生きる証と寸分も疑うことない。
■母
大尉と再婚した仕立て屋の女房は、自らの生存と一人娘の庇護の代償として大尉の継承者「息子」を産む。自らの血の継続を願うためには、戦の大義は隙いることもない、かけらもない。
■姉
大尉の世話をしながらも、人民戦線生き残りとして戦う弟の無事だけを祈る姉、自らを臆病者と叱咤する、そこにあるのは純粋な家族愛、近親者偏愛の姿だった。
■少女
主人公の少女といえば、
このような周辺人間の思惑の重荷に感知せず、古来からの伝説的おとぎ話に少女なりの夢を託す。現実逃避と非難するその権利は誰にもない。

クライマックス、少女が赤ん坊を守る、血を繋ぐシーンに涙した。
指先から滴り落ちる血、血、血の尊さ。
少女が本当におとぎの国で生きるという幸せを感じてくれたのならいいのだけど・・・。
しかし、
小賢しい僕は、暴力、恐怖、運命に打ち克つ「血」の強靭さを実感できない、悔しい。
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