マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 (2011) 

文字数 731文字

【望ましき亡霊、サッチャー首相】 2012/3/24



サッチャー首相への限りない敬愛に満ちたシネマだった。
本シネマは亡き夫と会話するという幻覚に悩む晩年のマーガレットの追想で構成されている。

自分の不勉強とはいえ、彼女の政治的背景が形成された父の存在、
新自由主義の基盤を本作品ではじめて知ることになった。
また夫君デニスとの出逢い、結婚のエピソードはデニスの優しさを教えてくれると同時に
マーガレットが亡霊としてでも再会を願う熱い想いが伝る。

予想したものの、彼女の生き方におけるジェンダー革命への燃え上がる決意は凄まじい。
まして特権階級が集合する保守党においての彼女の居場所は当初から異端であったが、
考えてみればそれが逆に英国を率いるエネルギーに転換されたのだろう。

シネマでは、彼女の政界デビューから辞職までを克明に再現していく。
いわゆる「大国病」に侵された英国ハイ・ソサエティには彼女の偏見と独断が必要だった。
ひとつ、
アルゼンチンとの戦争(フォークランド紛争)においてアメリカ国務長官の調停を
軽く一蹴するくだりは痛快である。
ふたつ、
ヨーロッパ連合加盟を断固拒絶する姿に、今のEUの混乱の萌芽すら見え隠れし、
彼女の正当の証にも見える。
彼女は啖呵を切る、サッチャーが浮揚させた「英国の経済をなぜフランスに売り払うのか?」と
・・・見事なリーダーの姿だった。

ところで、狂言回しのように現れるデニスの亡霊。
亡霊に導かれるのはハムレットのみならず世界の英知には珍しくも無い現象かもしれない。
その意味するところは、「間違えた道筋を過去の経験から修正していく」ことにある。
ロンドンオリンピックを迎えテロの脅威に悩む英国にとって、
望ましい亡霊はマーガレット・サッチャーその人ではないか。

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