さすらいの航海(1976)

文字数 798文字

【呪われた民族?】 1977/9/7



戦後32年が経つが、相変わらずナチスとユダヤ人問題はシネマの素材になり続ける。
「マラソンマン(1976)」のコアもやはりナチスの亡霊だったのに驚いたが、同じ二次大戦敗戦国でありながらナチス・ユダヤを理解しがたいのは、島国日本で温室栽培された単一民族故には迫害の遺伝子を持つことがなかったからだろう。
ユダヤ人に同情できるほど僕には知識も信念もない、原題の「呪われた航海」は刺激的過ぎた、だから「さすらいの航海」なのだろうけれど。

本作は、しかしながら教条的なナチス対ユダヤ人の体裁をとってはいない。
ユダヤ人亡命者を乗せた客船「セントルイス号」が各国の受け入れ拒否をのあげく大西洋をさ迷い続けるという実話をベースにしている。
ユダヤ人という記号が世界からどのように受け止められているかを、簡潔に示した秀作だった。
この悲劇は第二次大戦直前、各国がナチス・ドイツ対応に腰が引けている中での出来事とはいえ。そこにはユダヤ人差別が横たわっている。

大いなる決心をして亡命を選んだユダヤ人たちが、世界の理不尽な扱いに抵抗することなく黙々と生への希望にすがりつく姿から、
世界の各地で迫害に耐える無抵抗のユダヤ人が見えてくる、というメッセージがあった。

ローゼンバーグ監督はユダヤ人たちを正攻法でとらえる一方、豪華なキャスティングでシネマファンを満足させる。
船内客室シーンが多く動きが抑制されるなか、大勢の名優たちと会える喜びは有難かった。
オスカー・ウェルナー、フェイ・ダナウェイ、リー・グラント、キャサリン・ロス、ベン・ギャザラ、マルコム・マクダウェル、ジェームス・メーソン、
オーソン・ウェルズ、フェルナンド・レイ・・・彼らは自分たちの持ち味を出し切ってくれた。
マックス・フォン・シドーは人道主義者ドイツ人船長を好演した、暗い暗いシネマの中の唯一の光だった。
(記:1977年9月7日)
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