グッド・シェパード (2006)

文字数 1,145文字

【良心的かつ本格的シネマとはかくあるものだ】 2007/10/21



「あぁ、お願いだからこのままずっと、できれば永遠に観させてください!」
と思いながら息をつめた観た。
3時間弱の大切な時間があっという間に過ぎていく悔しさを一方では愛でていた。
シネマらしいシネマ、
すっかり近年お目にかかれなくなった「本物」に巡りあえ、
いくぶん興奮さえしてしまったた。

スクリーンいっぱいアップされる顔、
カメラはその表情を捉え、うごめく見えない背景をも感じさせる。
ロングショット映像の隅にまで気遣われたディーテイルの数々。
群集シーンの図られた猥雑さと論理性。
何よりも映像の美しさに惚れ惚れと見とれ、物語すら一瞬停止する。
こんな映像、永遠に観続けていたかった・・・・
未練たらたらな自分を今でも責める気にはなれない。

物語は、エリートたる青年、父の無念を背負った青年の半生記、
CIAという職場も含め普通ではない。
でも、僕はこの主人公を特別な例外として、遠く離れて眺めることはできなかった。
彼の信念、道徳が理解できるし、戸惑い、過ちも共感できる。
そこにある、人間が生きること、
どの時代、どの国家、どの職業であれ人間の積み上げていく営みそのものに共感できた。

一体、生きていくうえでまったく問題を抱えていない人間なんているはずもない。
ついこの間まで、仕事人間で家庭を顧みないといわれていたのは
ジャパニーズサラリーマンだったではないか。
僕は主人公を非情なエリートスパイとはどうしても思えないし、
自分の仕事に誇りを待たない人間こそ信用できない。
そんなことから、ロバート・デ・ニーロの見識にほっと安心しているのが僕の本音だ。
だから、余計に本シネマが気に入った、大いに気に入った。

ちょっと冷静に考えれば、
デ・ニーロなら当然の製作作法であったのだろう。
彼のシネマキャリア一切を総動員したスタッフの贅沢さがそれを証明している。
脚本、撮影、美術、衣装、音楽・・・すべて望むべく実力派がずらり。
このスタッフであれば、演者は誰でもいいはずのところ、
そこにこれまた実力派の演者がずらり。

キャスト・スタッフに正統派がずらりと言い換えてもいい。
良心的かつ本格的シネマとはかくあるものだ。
シネマが総合芸術であることを証明する善き作品だった。

老婆心①
コダック、テクニカラー最新テクノロジーにより、スクリーンでしか感じ観ることができない映像が多い。
ラストシーンなどが適切な例だが、明るさと同様に暗さのニュアンスの妙は劇場でしか確認できない。

老婆心②
もっともこんなにも贅沢な陣容だから、
観る側が「泣きたい」とか「だまされたい」とか「笑える」とか「スターを観たい」とか
「怖がりたい」・・・
というピンポイントに立つと空回りするのも必然、本シネマは観客を選ぶだろう。
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