ビヨンド・ユートピア 脱北 (2023)

文字数 1,241文字

【怒りのドキュメンタリー 】 2024/1/24


原題は「BEYOND UTOPIA」だけで脱北は日本タイトルとして付け加え られたようだが、見終わったとき邦題が「馬から落馬する」だったことに気づく、それも意図したダブルミーニングだったことを理解し、重い溜息をついた。
北朝鮮はユートピアなのだ国民にとって!

理想の国家を目指す北朝鮮、国家のために耐え忍ぶ国民の図式が確立 された国民の不幸を改めて身にしみて感じた。
国家は国民のために存在するもの、国民の幸せのために奉仕するもの、ぼくが信じている価値観が本シネマに登場する脱北者には謎の言葉になるらしい。
「金正恩は立派はお方、国家の繁栄を成し遂げるまで国民は歯を食いしばる、実現できないのは自分たちが不甲斐ないから」という言葉を80歳の女性や小さな女の子から聞いた時、本気で言ってると思った時、北朝鮮の権力者の罪は計り知れなく重くて深いと確信した。

何をいまさら北朝鮮非難シネマかい?というくらい、近年はかの国にの無法ぶりには怒りを覚えることもなく、一種麻痺状態だったぼくは本シネマで覚醒した、一級のドキュメンタリーシネマの力で大きく肩を揺すぶられた思いだった。

シネマ冒頭 本作はすべて当事者及び密着スタッフの手になる映像であり、一切再現撮影はないとのメッセージがあった。
物語は大きく三つのパートが並行して語り告げられる形式になっていて、それを補填する形で北朝鮮から漏れてきた秘映像が差し挟まれる。

ひとつは:中国に脱北した5人家族(80歳から幼児迄)がベトナム、ラオスを経てタイにまで向かう逃避行のすべて、リアルすぎて胸が苦しくなった。
このパートでは脱北支援活動を長く続ける韓国のキム牧師の献身が眩かった、彼のもとにはほぼ毎日脱北援助の依頼がくる、できる限りの手を尽くす牧師は小さい子供を失った代わりの人助けだと呟く、韓国(国家)の支援はない。
脱北を現場で受け持つのがブローカー、お金のためのビジネスとしての逃がし屋たちのネットワークがある、まるで小説の世界だった。
その実態を本シネマで見ることができる、山中で迷ったふりをしてギャラを釣り上げるブローカーに怒ることなく対応する牧師、壮絶だった。

ふたつめは:息子を北朝鮮に残したまま脱北した母親の苦悩のドキュメント、ほとんどは北朝鮮のブローカーとの電話でのやり取りになるが、息子が収容所で虐待され拷問されるのを成す統べなく聞かされる彼女の苦悩、彼女の言葉に戦慄する・・「こんな国はかってナチスしかなかった」

三つめは: 脱北した女性へインタビューで白日の下にさらされる北朝鮮のリアルな日常と、欺瞞国家への憤りと、それでも抑えることのできない故郷への愛情が哀しかった。

フィクションがどこにも入っていないから、優れたドキュメンタリーだというわけではない。
勇気ある人々に密着した撮影スタッフ、すべての支援者、その善意と正義をきちんとまとめたシネマの力、製作陣に感謝した。
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