柘榴坂の仇討 (2014)

文字数 692文字

【「家族」のための不戦】 2014/9/23



人情物語小品、しかしながら考えさせられるテーマは高大なものだった。
さすが「浅田次郎」原作と、ここは褒めておきたい。

「仇討」自体は興味ある素材として今までも、多様な扱いがあったが、
今シネマでは「国と個人」の在り方を真正面から説いていた。

彦根藩井伊直弼暗殺にまつわる後日談。
暗殺を阻止できず切腹も許されず「仇討」下命を受けた護衛藩士、
そして襲撃した水戸藩の生き残り藩士二人が最後に向かい合う。
そこに至るまでの13年間と、最後に二人の武士が選んだ生き方とは・・・?

明治の代になっても、彦根藩が消失しても仇討をやめようとしない武士。
それは井伊大老の人柄を慕ってのこと。
一方、
ひっそりと世に隠れて生きる水戸藩士。
井伊大老の考えは正しかったが、暗殺行為は間違いではないと今も信じている。

そこにあるのは国(藩)のために生きる、そして死ぬる忠義のぶつかり合いだった。
日本人のこころの奥深くに巣食うヒロイズムは徳川幕府が創り出した「化け物」だった。
本シネマはその「化け物」を一刀両断に斬り捨てる。
「仇討禁止令」など一顧だにしないのはそれが明治政府の法度だからだろう。
しかし、二人の武士に「死の忠義」を思いとどまらせるのは「家族」だった。

「家族」のために戦うことは正当性がある
…と言うのではなく、家族のために「戦わない」というわけだ。

雪の中にひっそりと、しかししっかりと咲く椿。
国家のために、信条のために、権力者のために戦うことはしない。
家族のためにも戦うことはない。
家族のために、戦うことを止め、そして生きる。

小品ながらなかなか骨太なメッセージを受け取った。

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