市子 (2023)

文字数 891文字

【食べて笑って泣く 杉咲花さん】 2023/12/9


正直に告白するとシネマの結末が不明のまま見終わってしまった。
観落としたり、聞き逃したりしたわけではない、ぼくの想像力が作動しなかったせいだと後で気付く。

まったくの事前情報なしで鑑賞するにはハードな物語だったし、原作が舞台劇、シネマも舞台の作者・演出家戸田彬弘さんが担っていることも含めて、かなり複雑な仕組みが張り巡らされていたみたいだった。

ということで恥ずかしながら後知恵で舞台原作情報を収集し、ようやく物語の全貌のようなものを感じ取った次第だから、ここで偉そうなレビューを述べるのは、いささか抵抗がある。
だから、純粋にシネマとしての感想を述べるのに留めておきたい。

なにより 杉咲花さんの熱演がシネマの中で飛びぬけて輝いていたし、周りの共演者達も、子役さんを含めて花さんの演技にシンクロし、 恐らくは力量以上のアウトプットになっていた。
冒頭 ものを食べながらの笑顔に涙(咀嚼しながら、頬を緩め口角を挙げ、目から落涙)を目の当たりにしてたじろいでしまった。
これは今年の女優賞を持っていったなと思った。
まだシネマが始まったばかり、このあとどんな展開かも不明の時点でのことだった。

前述のとおり、そのあとの展開は個人のモノローグベース(舞台劇らしい)の映像になっていくので、観ていてとても疲れる。 手抜きなしで、ぐいぐいと引っ張られ、突き放される。
モチーフはと言えば、無戸籍女性にまつわる殺人事件、死体遺棄事件というあっけらかんとした単純な設定だが、登場人物が個性的でその役割を忖度するだけで満腹になりそうだった。

無戸籍女性の主人公がどう生きていくか?
彼女は哀れな可哀そうなちっぽけな存在なのか? それとも?
ミステリー仕立てとしては、ひとつひとつの謎解き映像が不十分な不親切さだが、観終わってみればミステリーの深さに慄く。
そこには人間の本性を垣間見ることの難しさがずっしりと重く横たわっていた。

冒頭の花さんの感動的演技は、実はもう一度回想シーンとして登場する、しかし最初ほどの衝撃がなかった、これがシネマだ。
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