ザ・ファイター (2010)

文字数 1,355文字

【クリスチャン・ベイルだ、文句あっか!Ⅱ】 2011/3/28



アカデミー賞の評価はともかく、「助演男優」受賞というのが彼らしい。
主演男優は疾うの昔、「太陽の帝国」で僕が差し上げているから充分だし・・・?

先ずファ-ストシーン、
クリスチャンファンには堪らないショットが待っていた。
思いもよらない風貌と喋り・・・薬物中毒者がそこにいた。
いきなり初っ端からファンはクリスチャン・ベイルの世界にいざなわれる、
はい、何の文句もございません・・ってね。

彼の役作りの深さは今に始まったことではないし、
基本的に俳優であればそれなりの役作りは当然過ぎる作業だとも思う。
(残念ながら日本シネマ界はこの点低レベルだけど)
それにしても、外見も内面も「マシニスト」以来の大変身だった。

シネマ冒頭で「事実に基づいたストーリー」との注釈があったことも考え合わせ、
クリスチャンは役柄である(ディッキー)本人になりきってるのだろうと想像した。
クラック漬けの痩身、後頭部のハゲ、異様な陽気加減、
本来は社会の悪であるはずのディッキーの存在が、
故郷ローウェルでは伝説的英雄として受け入れられている・・・・
それは彼が一度だけ世界チャンピオンをダウンさせたボクサーだったから。

誰でもこんな人物を一人や二人知っている。
いわゆる町の有名人だ、本人も過去の輝ける一瞬を勲章のように胸に秘め生きている。
クリスチャンの演技は屈折した田舎町の英雄を一般的にかつ具体的に再現していた。

そんな怪しいディッキーの人間関係が本シネマの妙になっている。
主役(だそうだ)である弟のミッキーはトレイナーでもある兄を尊敬するあまり、
自らの夢であるチャンピオンへの道が危うい。
母親はミッキーのマネージャーである一方、家族の統率とビジネスを混同する、
この家族が思い切り下品なのも愉快納得。
弟の恋人、セコンドの警官はミッキーがチャンピオンになるため必要な人間だが
ディッキーとは折が会わない。

彼らの争い、諍い、愛憎、調和、許しが
実はボクシングストーリーを凌駕している印象があった。

ボクシングシーンも秀逸だが、そこに過大な期待をすると、
もしかして失望するかもしれない。
ミッキーとディッキーのトレーニング、リングでの戦いはそれなりに感動するが、
過去の名作たちを越えるものではない。
BGMにエアロ・スミスやツエッペリンを使用していたが、
やはり「ロッキーのテーマ」には敵わないのも真実だ。

これら定番BGMもこの田舎町ローウェルに似合っていたし、
町の有名人兄弟にピッタリだった気がする。
ただ、母とディッキーが怒りの中で一緒に歌うビージーズ、
さすがビージーズ演歌が胸に浸み、ぐっと込みあげるものがあった。

クリスチャンに戻ろう。
彼は刑務所に服役中、クラックを身体から抜き去る。
服役中に自分の小さな伝説が崩れ去ったことを思い知る。
出所したディッキー、見た目はほとんど変わらない。
クラックと縁を切り、家族に、仲間に詫びる・・・元英雄、元ジャンキー。

見た目はそんなに変化していないが
スクリーンからは強い更正の意志が発散されていた・・・!
これが クリスチャン・ベイルだ 文句あっか。

老婆心:
エンドロール中、実在のモデルが登場する。
ディッキーに似すぎていて気持ち悪い。
いやクリスチャンがディッキーを真似たんだけどね。

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